episode64 ページ19
僕が今まで見てきた中でも凄く立派なピアノだった
光沢がかった表面に傷も擦れも一つなく輝いている
本当にこれ僕が弾いていいのかな…
宮野:明日のオープン以降は週末の3日間ここで弾け。曲は俺が用意した曲を覚えておけ
クリアファイルに閉じられた楽譜を見るとどれも知っている曲だった
どれも簡単な曲で楽譜を見ずとも弾ける曲だ
素人でも練習すれば簡単に弾ける曲でなんとなく感じた
僕じゃなくても弾けるんじゃないか、そう思ってしまった
『…』
宮野:天才からしたら簡単な曲ばかりだろ？そうだな。逃げ出した男は泣きながら覚えてたな〜
…………
…逃げ出した男。
なんとなく、感じていたことがある
僕が宮野さんのマンションに初めて住み始めた日
新品ではない男性用の日用品も置いてあった
だけど宮野さんが使っている様子もなかったから付き人の人のものかと思っていた
違う
僕の前にもいたんだ。
僕のように何百万円で買って、物を買い与えていた人がいたんだ
逃げ出したとはどういうことなんだろう
目を向けていなかったことなのに途端に自分の現状に気付いた
『…』
宮野:お前、もしかして自分のことを俺がずっと探してたのかと思ったのか？
俯く僕に対して宮野さんは鼻で嘲笑した
そこに優しさなどあるはずもない
ただ彼は欲しかったんだ
逃げた男の「代役」を。
宮野:でもお前の写真見せられた時はびっくりしたな〜天才ピアニストの男があの風俗嬢に飼われてるとは。そんで300で売れるんだから。
別に誰でもいいわけじゃない。
人前に出しても恥ずかしくない清潔感
礼儀作法のできる上流階級出身
そして何よりルックス
それに見合う男をずっと探していた。
それに当てはまるのが僕だったと綴った
宮野:中国人のお前を雇うのは日本人を雇うよりもずっと楽だ。なんせ日本人は日本語を喋るなと言ってもつい漏れてしまう。なんせ母国語なんだからな。
だけどジュン、よそ者で俺に金で買われたお前は喋る権利などない。逃げる権利もだ。
『…』
お金で買われたということ
僕はその意味をようやく理解した
宮野:300万分、一生俺のそばで働くんだな
その後もあの服やアクセサリーは福利厚生だのと言って笑っていた
ずっと笑いの止まらない、頭のおかしい人なんだと一瞬思ったが
それは僕も同じではないか
涙すらも出なかった
その日から僕は忘れたように日本語を話さなくなった
宮野さんの前でも、口にすることはなかった
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ジェリー(プロフ) - はじめまして。沢山更新されていたので、久しぶり最初から読み返しました。考えさせられることが沢山あり、泣きそうになりました。更新楽しみに待ってます！ (2021年5月14日 6時) (
レス) id: a4ccdce64b (このIDを非表示/違反報告)
ジンリ(プロフ) - 内容がとっても濃くて、引き込まれて一気読みしてしまいました涙ジュンピと再会、、。みんな幸せになって欲しいです、。更新大変だと思いますが応援してます！！ (2021年5月8日 21時) (レス) id: 2abf938477 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：やっこちゃん
| 作成日時：2021年4月8日 18時
