episode46 ページ1
“こちらはどうだい？”
『痛いです』
“ではこちらは？”
『…痛くないです』
入院して3ヶ月が経つ頃
ギプスから解放された右手
不慣れだった生活がようやく終わると思っていたのに
どうしてだろう
肘から下が無い
感覚が全く無く、床と垂直に宙ぶらりの状態になっている
腕を上げようと思っても力が入らない
どうしてなんだろう
先生が手に触れても何も感じない
左手は温度もかさつきも触感も感じるのに
どうしてしまったのだろう
どうして同席しているお母さんが泣いているんだろう
先生は難しそうな顔をしているんだろう
どうして…
僕の右手は動かないんだろう
・
・
生まれた時から僕の家には大きなグランドピアノがあった
学校と寝る時間以外はずっと鍵盤に触れていた
楽譜と鍵盤の色の無い世界を行き来すると、
見えないはずの音がまるで色付いたかのように奏でる
その時間が幼いながらに楽しかった
“ジュンフィ、あなたはとても有名なピアニストなの。だから他の子とは遊んではいけないの。”
家とは別の場所で演奏することもあった。
いつもとは違う蝶ネクタイをつけて、スーツを着て。お母さんが髪をクリームで固めてくれる
くすぐったいけど我慢しなさいと言われるから何も言えない。
僕以外にも同い年ぐらいの子がいる中、名前を呼ばれると皆ステージにあるピアノを演奏する
知らない大人が何人も並んでいる日もあれば、沢山の人の前で演奏する日もある
演奏が終わると写真を撮られることや大きなカメラが回っているところで感想を言うこともあった
それが発表会だと知ったのは小学校高学年の頃。
上手く弾けた日には金色のトロフィーや「文俊輝」と僕の名前が書かれた賞状を貰えた
本屋さんの前に行くと、僕が本の表紙になっていたこともある
よくわからなかったけど、お母さんは凄く喜んでくれた
ピアノが上手くなればお母さんが喜んでくれる
僕を褒めてくれるから僕はピアノを弾くことをやめなかった
“あいつ、またさぼりかよ”
“やーい病気持ち”
だけど、一度も僕は友達と遊んだことがない
怪我をしたら駄目だからってお母さんからも先生からも
体育の授業に参加することは許してくれなかった
それでも僕は友達がいなくても平気だった
帰ったらお母さんが僕のそばにいてくれるんだから
世界で一番のピアニストになる
それが僕の夢。
だが15歳の夏、それも叶わなくなってしまった
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ジェリー(プロフ) - はじめまして。沢山更新されていたので、久しぶり最初から読み返しました。考えさせられることが沢山あり、泣きそうになりました。更新楽しみに待ってます！ (2021年5月14日 6時) (
レス) id: a4ccdce64b (このIDを非表示/違反報告)
ジンリ(プロフ) - 内容がとっても濃くて、引き込まれて一気読みしてしまいました涙ジュンピと再会、、。みんな幸せになって欲しいです、。更新大変だと思いますが応援してます！！ (2021年5月8日 21時) (レス) id: 2abf938477 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：やっこちゃん
| 作成日時：2021年4月8日 18時
