episode21 ページ21
ガラガラ…
「…ジスー。遅れてごめんね。」
その日はいつもより肌寒かった。
日本のように涼しさではなく冷たさを感じる風が吹き、紅葉も急ぐように散り始めている
それを伝えようと急ぎ目に病室に向かった
「早く見に行こうか。」
巻いていたストールを外しながら彼の元へ駆け寄った
彼はいつも読んでいた本を開いたまま手元に置いていた
また開きっぱなしで寝ている
「………ジス？」
本を閉じようと触れた彼の手
今まで外にいた私なんかよりずっと冷えていた
冷たくて氷のよう
「ジス、ねえ、ジス…ジス…」
彼をいくら揺すっても目を覚ますことはなかった
まだ早いよ
一緒に紅葉見てないよ
私の宝物がこの世から消えた瞬間だった。
・
・
「…それから何もやる気が起きなくて。日本語の講師も辞めて日本に帰ってきたの。両親には会ってない。何年も立ち直れないの」
どちらが夢だったのだろう
ジスと過ごしたあの何年間
それとも生きている今も私は夢を見ているんだろうか
『……Aさん。』
「…ごめん。」
日本語の分からない彼の前でただ淡々と語っていた
28歳にもなってぐちゃぐちゃになった顔でただ泣いていた
もう何年も前の話なのに夢に出てくる
毎日どこかでジスに見られているんだと思うと辛くなる
知らない土地で身分も知らない男と一緒に暮らしている
『…なかないで』
私よりもずっと大きい
大きくて広いその身体で包んでくれた
ジュン、日本語上手になったなあ…
「…ありがとう…ジュン…」
人に抱擁されるのが苦手になっていた
ありえないことだけれど、冷たかったらどうしようとか
痩せ細っている身体なんじゃないかって怖くなる
『…そばに、いるから。ぼくは』
嘘でも偽りでもよかった。
それでも今だけは
束の間の時だけは誰かにかけてほしい言葉だった
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なこ - 素敵すぎて一気読みしてしまいました…！覚えた日本語をカタコトで喋るジュンくんかわいい…続きが気になります！ (2020年2月11日 23時) (
レス) id: 55071ebb5f (このIDを非表示/違反報告)
きのこまる - 本当に本当に素敵な作品で、毎日夜寝る前に見させてもらっています。これからも作者様のスピードでぜんぜん大丈夫なので楽しみに待っています。素敵な作品を作って下さりありがとうございます！ (2020年1月14日 21時) (レス) id: e91a239aa9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：やっこちゃん
| 作成日時：2020年1月9日 13時
