25. ページ27
ひたすら黙って道を歩く。
後ろからるぅとがついてきているのには気づいているが、手は繋いでいない。
ただただ黙って、道を歩いていた。
自分が大人げないことをしているのは分かっている。
知らない街で唯一知っている人から手を離され、先に歩いていかれることが、どれだけ不安なのかということも分かっている。
それでも、勢いでしてしまった。
王族としての義務と愛国心を持っているのはいい。
むしろそれがなければ困る部分もある。
ただ、何も疑わずに正義の心を持っているところと、「ころんは平民ではない」という言葉が、思った以上にころんの心に刺さったのだ。
似ている。
学園に入る前まで仲が良かった、ななもりと。
こんな行動を取るつもりなんてなかったのに、ななもりと似ていると思った瞬間、どこか心の距離ができてしまった。
これはころん自身の問題で、るぅとはまったく関係がない。
ただの八つ当たりなのも分かっている。
「こ、ころちゃん!」
後ろから、るぅとが叫ぶ声が聞こえた。
その声が今までに聞いた声とは違っていて、ころんはハッと振り返る。
少し離れた場所で、るぅとの腕を掴んで立ち去ろうとしている一人の男が目に入った。
気にしていなかったが、この辺りは治安がよくない地域だ。
一人で歩いている幼い子どもなんて、連れ去りの対象になりやすいことは知っていた。
だからずっと手を繋いでいたのに。
「っ、もう!」
急いで駆け寄りながら、腰のベルトに挟んでいた杖を取り出そうとする。
ころんに気づいた男は、そのままるぅとの腕を引っ張って走り始めた。
これだと間に合わなくなるかもしれない。
男が角を曲がろうとしたのを見て、ころんは杖を諦めて右手を前に出した。
びゅん、と強い風が吹き、男とるぅとの身体が宙に浮く。
「その子は僕の連れだよ、返せ!」
ころんが怒鳴ると同時に、男がるぅとの腕を離すのが見えた。
るぅとは浮かせたままころんの方に呼び寄せ、男はそのままにしておく。
ころんの腕の中に収まったるぅとは、涙目でころんを見上げた。
ころんはるぅとを抱きかかえたまま、男に近寄っていく。
「お前の仲間も近くにいるってことだな。ちょうどいい」
ころんの殺気に気圧されたのか、男が震え上がった。
角を曲がった先に、駆け去っていく馬車があった。
あれに乗せて連れ去るつもりだったのだろう。
52人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「すとぷり」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
翠霞チサ(プロフ) - ねこさん» ありがとうございます、とても嬉しいです! (2023年2月15日 3時) (レス) id: 89401d456b (このIDを非表示/違反報告)
ねこ - 本当に好きです、何回読んでも飽きません (2023年2月14日 22時) (レス) id: 0464914362 (このIDを非表示/違反報告)
緋桜ひよ子(プロフ) - ナナシさん» わああああ!!ありがとうございます!!! (2021年10月4日 21時) (レス) id: a44667decb (このIDを非表示/違反報告)
ナナシ - 緋桜ひよ子さん» え、本当ですか!私としてはもちろん大丈夫ですが、本人様たちには迷惑がかからないようにお願いします…! (2021年10月4日 21時) (レス) id: 1f91d52096 (このIDを非表示/違反報告)
緋桜ひよ子(プロフ) - あ…あの!こちらの作品のファンアートを描かせて頂けませんか…!?あまりにも素敵な作品なので・・・・・。ダメであれば大丈夫ですので…! (2021年10月4日 20時) (レス) @page44 id: a44667decb (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:ナナシ | 作成日時:2021年9月22日 2時