274.魔術師と歌姫 ページ38
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本当に、酷な現実だ。
こっちに来た人達が元の世界に帰った記録が無いと聞いた時点で、そんな気はした。
私はきっともう、元いた世界には…故郷には帰れないのだと。
そして決めなくちゃいけないんだ。
この世界で生きる覚悟を。
私はもう一度深呼吸をすると、パン!と自身の頬を叩いた。突然のその行動にマーリンは少し驚いたように目を丸くさせていた。
そんな彼女に、私は笑みを浮かべる。
「それ聞いて、スッキリした!!」
「…意外な反応だな」
「ショックで泣くと思った?」
「てっきりな。それくらいそなたにとっては酷な現実を告げたつもりだったと思うのだが…」
確かに、ショックではないと言ったら嘘だ。
元の世界にいた時は辛いことばかりだったけど、楽しい思い出もそれなりにあったから。
けど不思議なことに、マーリンからもう元の世界には戻れないかもしれないと言われてもそこまで悲しい気持ちにはならなかったんだよね。
それはきっと、私が…もうこの世界を好きになってしまっているからだと思う。
私を縛りつけていたお母さんはここにはいない。歌うことに苦痛を感じることも、この世界では無くなった。
「怖い生き物たくさん出るし、物騒だし悪い奴らはいるしで大変だけど、いつの間にかここが好きになったみたい」
へへ、と笑えばマーリンは口元を緩め「そうか」と言った。
どちらの世界を取るのか、マーリンのおかげで私の決意は固まった。
何だか肩が物凄く軽くなった気分だ。
椅子から立ち上がって大きく伸びをする。
「マーリン、ありがとう」
「その表情を見るからに、覚悟は既に決まっている…か」
「元の世界に戻れるのか、戻れないのか…それをハッキリ知ることが出来たからね!これで何も気にせず思う存分先へ進める。マーリンのおかげだよ。本当にありがとう」
そこまで言うと、私はハッとして口元を抑え、コホンと1つ咳払いをした。
「失礼。マーリン先生のおかげです」
「先生?」
「これから偉大なる魔術師であるマーリン先生に魔力について学ぶご予定ですから!」
「私はキングのように甘くはないぞ、黄昏の歌姫殿」
「臨むところです、先生」
そんなやり取りをし、私達は笑いあった。
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マーリンと夢主の回、終了です。
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きよか。(プロフ) - あぷるさん» 初コメありがとうございます(;_;)掲載当初から…うわわわ…なんと…ありがたいです…(;_;)嬉しいです!あとがき、ちょっと紛らわしかったですがサプライズ、ということで!2年、あっという間です…。まだまだ続きます!ので、ぜひこれからもよろしくお願い致します! (2020年11月30日 22時) (レス) id: 17fe0d2d28 (このIDを非表示/違反報告)
きよか。(プロフ) - イオさん» ありがとうございます(*^^*)続編、また頑張っていきます!発狂してください、ぜひ!(笑)シリーズ7は12月からスタートになります!もうすぐです…!これからも引き続き頑張っていきますので、楽しんでいただければと思います♪ (2020年11月30日 22時) (レス) id: 17fe0d2d28 (このIDを非表示/違反報告)
きよか。(プロフ) - 音無さん» うわぁぁ(;_;)長いのに、また読み直してくださってるなんて…嬉しい限りです…。夢主ちゃんの成長を改めて感じてもらえてとても嬉しく思います(;_;)文才なんて、まだまだ全然ですがそんな風に仰ってくださって光栄です…!次はもうすぐです!楽しみにしていてください♪ (2020年11月30日 21時) (レス) id: 17fe0d2d28 (このIDを非表示/違反報告)
あぷる - 初めてコメントさせて頂きます。掲載当初から本当に大好きです。今回あとがきとあって寂しい気持ちになりましたが続編と言うことでおめでとうございます!二年間最高の作品をありがとうございます。無理せず更新頑張ってください (2020年11月29日 18時) (レス) id: 9ae6da1d4e (このIDを非表示/違反報告)
イオ(プロフ) - 続編決定おめでとうございます,十戒編が楽しみすぎて発狂しそうです,更新頑張ってください (2020年11月24日 22時) (レス) id: 13211e3e0a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:きよか。 | 作成日時:2020年8月22日 19時