笑顔という恐怖 ページ9
．
「戻りました」
予定通り、強引に手に入れた神のアクアを鬼瓦さんに引き渡し、皆がいるスタジアムへと戻る。ちょうどタイムをもらっていた雷門は、負傷した選手たちがベンチで簡単な手当てしてもらっているところだった。
「A、鬼瓦さんから聞いたわ……」
＿＿皆のためにありがとう。
夏未、それに皆は鬼瓦さんから神のアクアのことを聞いたようで、どこか意思のある強い瞳で僕を見つめる。
「……僕のためでもあるから」
それだけ言って僕は雷門の皆から逸らし、世宇子のベンチに目を向ける。
「おや、ようやく戻ってきたようだね」
僕に気づいた照美は、微笑みながらこちらに歩いてくる。
「わたしは驚いたよ。自分が実験体となって完成させた傑作を世間に公表させてしまうだなんて」
「実験体だったからこそ、だよ」
「……ここ数日で何か変わったみたいだね」
僕の表情で、数日前とは違うことを感じ取った照美は目を細める。
「昔のままだろうと実験体の僕だろうと関係ない。
この試合にぜったいに勝つ、それだけだから」
僕の強気な発言を聞いても尚、余裕の表情の照美は「残り少ない時間で、かい？」と笑う。
「残念だけど、僕が出る他ないらしいから」
目を丸くした後、照美は「あはは！どうぞお好きなように」と笑ってヒラリとユニフォームを揺らし、自分ベンチに戻っていった。
今の自分にやれることは全てやった。
だから、あとは本当にこの試合に勝つだけ。
「３点差……」
電子黒板に表示された、3と0の数字を睨む。
「潮音！」
今置かれてる状況は、お世辞にも明るく笑っていられるような状況ではない筈なのに、彼の声音は元気に溢れていた。
「勝つぞ！」
＿＿＿そして、円堂くんは笑っていた。
「……うん」
でも、今の僕には
『それ』は恐怖でしかなかった＿＿＿＿。
.
素敵なハッピーエンドなんてきっとない→←差し出した手の先は、
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作者名：ねぐせ | 作成日時：2013年7月31日 16時
