. ページ21
.
「──もしかしてその前髪も俺リスペクト?」
不意に聞かれて、咄嗟にはいっ、と答える。それから、え、と驚きが口から零れた。
『……初めてです。誰かに気づいてもらえたの』
びっくりしながら言うと、ええほんと、と笑いながら驚かれる。本人に気づいてもらえるなんて、と私は丸くなった目を元に戻せずに俯いた。
前髪を弄ったのは大学に入った頃くらいだ。形から入る、じゃないけど、何か変わるかも、くらいの軽い気持ちで私は前髪の分け目を変えた。もしかしたらabcであそこまでいけたのもそのおかげかな、とか今更思い始める。伊沢さんはまたくしゃりと目を細めて笑って、それから立ち上がった。
「じゃあ、そろそろ終わろうか。ありがとうございました」
『……っ、ありがとうございました』
「じゃあ問、Aさん送ってあげて」
伊沢さんが言うと、かたわらにすわっていた問がはぁい、とゆるい返事をした。口を閉じると口角は下がって……あれ。怒ってる?
「Aさん」
伊沢さんが私に少しだけ寄って、息を多分に含んだ声で囁いた。
「問のことも構ってやってね。あいつ、なんか拗ねてるみたいだから」
『え……なんで』
なんで拗ねてんの。浮かんだ疑問は伊沢さんの笑顔に押し込まれた。彼はにこりと笑って部屋を後にする。少し広く感じる白い壁の中に、私たちはふたりきりで取り残された。
142人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
鳩麦こおり(プロフ) - 葉華さん» わわ、ほんとですか...! 嬉しすぎるお言葉...! ありがとうございます🥰🥰 (1月23日 17時) (レス) id: e6ac31a148 (このIDを非表示/違反報告)
葉華(プロフ) - 面白くて、続きを読む手が止まりませんでした…!素敵な作品をありがとうございます! (1月19日 4時) (レス) id: 799c11267c (このIDを非表示/違反報告)
鳩麦こおり(プロフ) - ジルさん» ありがとうございます〜! ゆるゆる更新ですが完結させられるように頑張りたいと思います💪 (12月31日 22時) (レス) id: e6ac31a148 (このIDを非表示/違反報告)
ジル - 更新頑張ってください! (12月31日 21時) (レス) @page5 id: 01b486c023 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:鳩麦こおり | 作成日時:2023年12月30日 23時