聴けなくなる、その日まで。

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何かある、っていうのは判っていた。


けどそれが、「別れ」と判った瞬間に、


感情が表に出そうになった。


悲しみと寂しさの、感情。


今日のうちは、そこでさよならをした。


とても顔を合わして、話せる気分じゃない。


Aさんは、一ヶ月後には居なくなる。


例えそれが短期間だったとしても、悲しいものは悲しいもの。


時間がない。


となれば、何かイベントが無いと距離を縮めることは不可能に近い。


じゃあ、男の俺が動かなくてどうするんだ。


いつまでもはじめさんに甘えてばかりじゃいられない。


夏のイベントといえば、花火大会や、夏祭り。


花火大会の方がロマンティックで、良いかな。


Aさんは、俺が思うよりもロマンチストで、夢を持ってる。


少女漫画のような恋愛なんかは俺には出来ないけれど、


Aさんを笑顔にする事は、俺にしか出来ない。そう信じた。


ここから近い所の花火大会は、丁度一週間後。


あとは勇気さえあれば、伝える事は伝えられる。


そう、貴女に''好き''だと。


貴女の奏でる音に''一耳惚れ''したんだと。


「遅い時間に失礼します。来週の日曜日、ご予定如何ですか？もし良ければ、一緒に花火大会に行きたいです。」


震える手を必死に抑えて、フリックで入力した。


既読の文字が付けば、頭がふわふわして、可怪しくなる。


「日曜日なら空いていますよ。花火大会良いですね！是非ご一緒したいです！」


何時だって礼儀が正しいのも、俺を惹かれさせたポイントだ。


オッケーの返事を貰ってニヤニヤしてしまうのは、駄目なこと？


好きな人なんだから、仕方ないでしょう。


「じゃあ、静岡駅で18時に集合しましょう。僕、とても楽しみです！」


「はい！私も楽しみにしてますね！」


やっぱり、大人っぽくて、素敵な人だなぁと。


だからこそのあの''音''なんだと、今理解した。


ピアノの音には、Aさんの人間性が現れている。


だから俺は、Aさんの奏でる音に恋した。









あと一週間で、本当は避けたかったその日が来る。


もし仮に、伝えれなかったとしても。


ずっと貴女の奏でる音に、恋し続ける。


貴女の奏でる音が、









─────聴けなくなる、その日まで。

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