#8 親知らず ページ8
その日の夜、僕は眠れなかった。
玲名と話していたことを思い出しながら、さて明日からどうしようかなと考えるとキリがなかった。
同じ部屋の家族を起こさないようにこっそり廊下に出た。冬の寒さが僕の体を震わせた。
居間には明かりがついていた。
姉さんでも起きているのだろうかと覗いてみると、父さんと姉さんがお茶を飲みながら話していた。
「あらヒロト起きてたの？」
気づいた姉さんが驚いた。
「ちょっと眠れなくて。父さん、お帰りなさい」
「おぉヒロト。最近どうも忙しくてお前たちのことを見てあげられなくてすまないな」
「ううん、いつもお疲れ様」
いくら養父といえど僕にとってかけがえのない家族である。父さんの隣に座り、入れ替わりで姉さんは湯呑みを取りに立ち上がった。
「学校は楽しいか？」
「うん。今日転入生が来たんだ」
「へぇ転入生。こんな時期に珍しいわね」
姉さんがお茶を入れた湯のみを僕の前に置いた。冷えた指先を当てる。
「両親の仕事の都合でって。東京から来たんだよ」
東京かぁ、と姉さんが呟いた。それと僕は思い出したように話を続けた。
「そういえば今日から集団登下校が始まったんだ。一週間だけだけど。朝は小学生の子を送らなきゃいけないから、どうしようかなって」
「あらそうなの？ そうね、私が送ってあげてもいいわ。仕事には十分間に合うし」
「じゃあ明日みんなにもそう伝えるよ」
父さんが小さくため息をついた。僕は横目にちらりと見つめる。
「お前たちもニュースで知っていると思うけれど、本当に嫌な事件が多いな。私は忙しさに負けてあの子達を常に守ることはできない。本当世話をかけてしまって申し訳ない」
「なんでよ父さん。このお日さま園にいる人はみんな家族なんだ。父さんが謝ることないよ。家族として当然のことをしているまでだから」
それを聞いた父さんが安堵の表情で僕の頭を撫でた。
ここにいる子どもたちがほとんど本当の親を知らない。ずっと小さい頃からここにいるのだ。僕だってそうだ。
それでもここの居心地は良い。そして守るべきものはたくさんある。
「ヒロトがそう言うなら安心だよ」
そう褒めてもらえるだけでも僕は十分だ。
姉さんがもう遅いから寝なさいと僕に言った。
暖かいお茶を飲んですっかり眠気も程よく来たところで部屋に戻った。
『そんなに子どもがいれば一人くらいいなくなっても気づかないよね』
そんな馬鹿なことあるわけないだろう、と考えているうちに眠ってしまった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 21人がお気に入り
お気に入り作者に追加
「イナズマイレブン」関連の作品
この作品を含むプレイリスト ( リスト作成 )
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
沙夜（改）(プロフ) - 葉兎野鳥さん» 最後まで読んでいただきありがとうございました！まさにその通りだと思います…終わらないでしょうね〜ヒロトが完全に連鎖を断ち切ったわけではないので…あくまでこの場での収束かなと。また機会があれば読んで頂けると幸いです。 (2018年10月8日 20時) (
レス) id: 2f6e543b6c (このIDを非表示/違反報告)
葉兎野鳥(プロフ) - またこういう作品を作ってほしいです。素敵な作品をありがとうございました。 (2018年9月27日 1時) (レス) id: fad212b8a4 (このIDを非表示/違反報告)
葉兎野鳥(プロフ) - とても考えさせられる作品でした。完全なハッピーエンドで終わらないのも、その先を見たいのに見れないっていう虚しさを残らせました。ひとりかくれんぼは終わらない、そんな気がしてなりません。また他の誰かが同じことを繰り返してしまうかもしれませんね。 (2018年9月27日 1時) (レス) id: fad212b8a4 (このIDを非表示/違反報告)
沙夜（改）(プロフ) - 枢さん、ご閲覧ありがとうござます！読んで貰えてこちらこそ嬉しいです…ありがとうございます！これからものんびりやっていきます、よろしくお願いします〜！ (2018年5月4日 21時) (レス) id: 2f6e543b6c (このIDを非表示/違反報告)
枢 - 長いことこちらのサイトからは離れていたのですが、偶然立ち寄った際にこうして再び沙夜さんの作品を拝見できて嬉しく思います。今後も御自分のお好きなものをお好きなように創作して下さると幸いです。これからも応援しております。長文失礼致しました。 (2018年5月4日 0時) (レス) id: 714c8b0c42 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：沙夜 | 作成日時：2018年2月11日 18時
