#16 声とノイズ ページ16
「おい。ヒロト」
突然僕を呼ぶ声が聞こえた。驚きで呼吸が止まる。体が一瞬跳ね上がった。緊張して固まる。
「……ヒロト」
返事はしなかった。先生じゃない。声の主がわかった途端、僕は恐怖でそのまま息をするのも忘れそうだった。
「ヒロト。ヒロト、お願いだ。こっちを見てくれ」
今にも泣き出しそうな声。その声を聞いた瞬間僕の良心が痛んだ。おいおい嘘だろと信じてもいない神様にこの時だけいいように願った。どうかこれが聞き間違いでありますようにと。ただの風の音だけと。それがたまたま人の声に聞こえているだけだと。
……布団の中で見開いたままの瞼をぎゅっと閉じた。
「 見 え た な 」
ぐにゃぐにゃな顔で笑った菊池くんが僕の目の前に現れた。
＊＊＊
……チャイムが鳴ったギリギリで教室に着いた。彼の分の荷物を私が持っていたから、気付いたクラスメイトが尋ねてきた。体調不良で寝ていると伝えると「はー珍しいこともあるんだな」とみんなは驚いていた。
ヒロトの教科書やら筆記用具やらを机に放り投げ、自分の席に座る。さっき逃げていった(私にはそれにしか見えなかった)Aのやつが隣の席のクラスメイトと話している。さっきのは何だったのか。それを聞くのも躊躇った。
「……ヒロト、保健室だって」
後ろからAの話し声が聞こえてきた。私は一瞬話しかけられたと思って体がピクリとしたがわざと無視をした。しかしどうやらそれは私に対してではなかった。会話は続いている。
「なぁ。最近みんなの間では何が流行っているんだ？」
「うーん。Aはゲームやってる？ FPSが俺たちの中でブームかも」
「あぁ、FPS人気だよね。俺は今PC版を少しかじってるよ」
「マジで？ PC版はまだ手を出してなくてさ〜」
……たわいもない話だ。先生が教室に入ってくる。それでも教室のざわめきは落ち着く気配がない。様々な声が行き交う中でAらの会話を横耳に、私は課題プリントでわからなかった問題をもう一度解き始めた。
「……ってあるじゃん？」
「……あー。やべぇやつだろ」
「実は菊池くんが……」
「……じで？ それさ……」
「内緒って……。俺の……。まさか菊池くんも」
「や……よ、こえぇじゃん！」
小さな声しかも色んな音が混じっていてよく聞こえない彼らの会話の中で、唯一確かにAから「菊池」という言葉が聞こえた。手を止めて耳をすませる。
Aが呟く。
「……でもさ。……本当なのか、……たくない？」
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沙夜（改）(プロフ) - 葉兎野鳥さん» 最後まで読んでいただきありがとうございました！まさにその通りだと思います…終わらないでしょうね〜ヒロトが完全に連鎖を断ち切ったわけではないので…あくまでこの場での収束かなと。また機会があれば読んで頂けると幸いです。 (2018年10月8日 20時) (
レス) id: 2f6e543b6c (このIDを非表示/違反報告)
葉兎野鳥(プロフ) - またこういう作品を作ってほしいです。素敵な作品をありがとうございました。 (2018年9月27日 1時) (レス) id: fad212b8a4 (このIDを非表示/違反報告)
葉兎野鳥(プロフ) - とても考えさせられる作品でした。完全なハッピーエンドで終わらないのも、その先を見たいのに見れないっていう虚しさを残らせました。ひとりかくれんぼは終わらない、そんな気がしてなりません。また他の誰かが同じことを繰り返してしまうかもしれませんね。 (2018年9月27日 1時) (レス) id: fad212b8a4 (このIDを非表示/違反報告)
沙夜（改）(プロフ) - 枢さん、ご閲覧ありがとうござます！読んで貰えてこちらこそ嬉しいです…ありがとうございます！これからものんびりやっていきます、よろしくお願いします〜！ (2018年5月4日 21時) (レス) id: 2f6e543b6c (このIDを非表示/違反報告)
枢 - 長いことこちらのサイトからは離れていたのですが、偶然立ち寄った際にこうして再び沙夜さんの作品を拝見できて嬉しく思います。今後も御自分のお好きなものをお好きなように創作して下さると幸いです。これからも応援しております。長文失礼致しました。 (2018年5月4日 0時) (レス) id: 714c8b0c42 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：沙夜 | 作成日時：2018年2月11日 18時
