Chapter３６ ページ36
.
彼女がお茶を入れたグラスをソファ前のテーブルに置いてくれた。綺麗なグラスで、大理石のようなそんな模様をしていた。
ありがとう、とお礼を言うと、彼女は笑って俺の隣に座った。
そのまま、窓の外を眺めるA。
外は秋晴れが広がっていて、窓からキラキラと光がもれていた。
その光を、目を細めて眺める彼女。
何だか、心臓が、痛かった。
『.....はじめさん？』
「.....ごめん、ちょっと、このまま、で」
横から、彼女をギュッと、抱き締めた。
彼女は何かを悟ったのか、そのまま動かずにいてくれた。
だって今、また俺は、ボロボロと涙を零している。
急にまた、心臓が締め付けられた。それはきっと、今この瞬間も、いずれは��過去��になってしまう。それは誰だって一緒だ。誰だって、今この瞬間は全て過去の思い出と化するのだ。
でも、それがとても寂しくて。悲しくて。
だって、いつか、いつかは。
そう思っては駄目なのに、俺が諦めては駄目なのに、なのに、やっぱり、怖くて。怖くて怖くて、この場所から彼女が居なくなってしまう日が、いつか訪れるかもしれないと思ったら、やっぱり、怖くて苦しかった。
『はじめさん』
彼女が俺の方を向いて、背中に手を回してくれる。
温かい体温を感じて、また、涙が溢れた。
『誰かのために涙を流してくれるはじめさんは、本当に優しくて素敵な方です。それが、私のために流してくれてると思ったら、更に嬉しくて....私、本当に幸せです。はじめさんに出会えて、本当に幸せです』
その言葉に、更に涙が溢れて。
あぁ、何処にも、いかないで。
もう、離れないで。
「A、」
涙でぐちゃぐちゃな顔を乱暴に吹いて、彼女を見る。
彼女も涙目になっていた。でもその瞳が少しキラキラしていて、綺麗だと思った。
長い睫毛にそっとキスをした。
彼女はくすぐったそうに笑った。
でも、みるみるうちに、表情を崩して、ポタ、ポタ、と、涙を流した。
その涙を指ですくう。
泣かせたら、駄目なのに。
でも、俺もボロボロ泣いちゃってるから、ちょっとだけ、許してよ。
彼女の頬に手を当てる。
彼女はまた、くすぐったそうに俺を見た。
今、この瞬間はいずれ過去になる。
でも、今、この瞬間は1度しかない。
たった、1度しか。
そっと、彼女に、キスをした。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 64人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
にんじん - 号泣してしまいました。素敵なお話をありがとうございました。大好きです。 (2020年12月4日 2時) (
レス) id: 979b35d4d9 (このIDを非表示/違反報告)
Daaa(プロフ) - サメ子さん» コメントありがとうございます！！そう言って頂けて....とんでもなく...嬉しいです...ありがとうございました！！！ (2020年10月15日 16時) (レス) id: 4b5c938df8 (このIDを非表示/違反報告)
サメ子 - お疲れ様でした！凄く良いお話でした……(；A；) (2020年10月14日 18時) (レス) id: 03b42f91b7 (このIDを非表示/違反報告)
Daaa(プロフ) - 天夢香さん» コメントありがとうございます！おおお、ド、ドハマリなんて...光栄ですありがとうございます！次回も何か書けたらいいなぁ(遠い目 (2020年7月26日 18時) (レス) id: 4b5c938df8 (このIDを非表示/違反報告)
天夢香(プロフ) - お疲れ様でした。3話読んだ瞬間どハマりしてしまいました。とても面白かったです！次回の作品も楽しみにしています…♪ (2020年7月26日 17時) (レス) id: 6c52710f91 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：Daaa | 作成日時：2020年7月5日 9時
