#90 ページ47
メールフォームを開く。
宛先はA。
しばらく考えあぐねていたが、ここは率直に、手短にいこう。
『さっきはごめん』
ためらう気持ちを振り切り、思い切って送信ボタンを押す。
ああ、送ってしまった。
即座にスマホの画面を切り、それを枕元に放り投げる。
と、すかさずスマホが鳴った。
まさか、と思い、慌てて画面を確認すると『Aからメッセージが届いています』の文字。
恐る恐る画面を開く。
『電話できる？』
電話か。
正直、気が引ける。
さっきのことは、100…いや、100以上に僕が悪いのだ。
ゴー・ゴーとの会話を思い出す。
駄目だ。まだ僕の悪い癖が出るところだった。
くだらない意地なんか捨てろ。
Aに直接話すんだ。
彼女にいくら罵られようと、因果応報だ。
意を決して返事を書く。
『いいよ』
自分に迷う隙を与えないよう間髪入れずに送信ボタンを押すと、すぐさま着信中の画面が表示された。
驚いた。
少し戸惑いながらも、覚悟を決めてボタンをタップする。
「あ…もしもし」
『よかった、出てくれた。あの、さっきはその、ごめんね』
聞き慣れた声。
やっぱり、少し怯えたような声色だ。
「僕の方こそ、本当にごめん。ひどい言い草だった」
自分でも驚くほどに、素直な言葉がこぼれ落ちた。
しばらくの沈黙。
きっと拍子抜けしているのだろう。
『あ…いや、大丈夫だよ。私の方こそ、ヒロが忙しいのに、呑気に居座ったりしてごめんね。迷惑だったよね』
Aはいつもそうだ。
相手に非があろうと、必ず自分から謝る。
むしろこういう場合ですら、相手に非があるとは思っていないのかもしれない。
「迷惑だなんて思わないよ。思ったことない」
思わず、訴えかけるように口を突いて言葉が出た。
でも、僕がこうやってAに謝罪を並べるのも、心の底ではただ罪滅ぼしをしたいだけなのかもしれない。
それなのに、Aは。
『ほんとに？私はヒロと話すのが本当に楽しいから、いつも時間なんて忘れちゃうよ。いつもごめんね』
そう言って、照れ臭そうな、それでいて少しバツの悪そうな調子で続けるA。
純粋すぎる彼女を前にすると、自分がいかに器の小さい人間なのかを思い知らされる気分だ。
思わず、本音がこぼれた。
「僕もだよ。Aといるときがいちばん幸せだ」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 154人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
みにょん - ドキドキしっぱなしで一気に読んでしまいました。すごく読みやすい文章で主さんの文章力に脱帽です。また気が向いたときにでも続きを書いていただけるとうれしいです(т_т) (4月9日 23時) (
レス) @page50 id: 0b8338cd33 (このIDを非表示/違反報告)
みかん - 最近見てみたら凄くハマって！！、続きを待っています! (12月28日 22時) (レス) id: 8c0883e968 (このIDを非表示/違反報告)
きを - 愛してます。一生更新待ってます。 (12月11日 8時) (レス) @page50 id: afeed903d8 (このIDを非表示/違反報告)
あぽろ(プロフ) - 最近ディズニーのハモカラみてベイマ再熱してこの作品という神作品に出会えました、、、なにとぞ、更新をいつまでも待っています、、、、 (9月27日 23時) (レス) @page50 id: ebcad6c5f5 (このIDを非表示/違反報告)
ame(プロフ) - 更新を…待っています…なにとぞ… (8月16日 13時) (レス) id: 7d07391b49 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：たーた | 作成日時：2015年2月9日 23時
