#74 ページ28
思わず耳を疑った。
私の聞き間違いでない限り、ヒロは確かにそう言ったのだ。
頭の中で何度その音を反芻しても、その言葉の意味がなぜか上手く頭に入ってこない。
言葉の意味は至って単純だ。
―――単純、だろうか？
「…ヒロ、あの」
「待って。事後承諾で悪いけど、条件を付けたい」
「…」
「今、この時点から今後一切、僕にこのことについて言及しないって、それだけ。
…もし、考えてくれるのならね」
「はあ…」
頭の中が疑問符で埋め尽くされたままで、思考回路がまともに機能しない。
「これでお互い、考えるべき課題が出来た。僕だけじゃ不公平でしょ」
そうは言われても、口論の挙げ句に公平に託けて提議された問題がなぜ"それ"なのか、私はとうとう訳が分からなくなってきた。
というか、いつの間に私はそれを受諾したことになったのか。
ついには考えることすらやめたくなる。
そんな私とは裏腹に、先程とは打って変わって、どこか精々とした表情でヒロは続けた。
「だからさ。これで一旦、手打ちにしない？」
「手打ちって…何の？」
「え、Aさっきまで怒ってたじゃん。
それとももう怒ってないの？」
「…あ、ああ！いや、怒ってるよ！すごく」
慌てて表情を切り替えると、ヒロは可笑しそうに笑った。
すっかりいつも通りの笑顔に戻ったヒロに安心して、私も自然と頬が緩む。
「だから、この話はもう終わり」
「…わかった」
仕方なくそう返した私の頭に、ヒロはポンと軽く手を置いた。
「ん、もう暗いし早く帰ろう。
女の子を遅くまで連れてまわる訳にもいかないしね」
「なにそれ。ヒロと一緒なら私、どんなに遅くなったって全然気にしないのに」
私の返答に一瞬きょとんとしたあと、ヒロはくるりと体の向きを戻してため息混じりに言った。
「…あーもう、そういうのいらないから。早く行こう」
大股で歩き出すヒロの後を、私は慌てて追った。
*
「はあ…やっと座れた」
「ほんと。疲れたね」
電車のボックス席に座ると、ヒロは大きなため息をもらした。
電車が動き始めると、その緩やかで規則的な揺れに、自然と眠気が襲ってくる。
お互い会話もまばらになり、ついにはヒロがぐらぐらと船を漕ぎ始めた。
寝ていいよ、と声を掛けるより早く、ヒロの首の力は抜け、そして小さく寝息をたてだした。
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みにょん - ドキドキしっぱなしで一気に読んでしまいました。すごく読みやすい文章で主さんの文章力に脱帽です。また気が向いたときにでも続きを書いていただけるとうれしいです(т_т) (4月9日 23時) (
レス) @page50 id: 0b8338cd33 (このIDを非表示/違反報告)
みかん - 最近見てみたら凄くハマって！！、続きを待っています! (12月28日 22時) (レス) id: 8c0883e968 (このIDを非表示/違反報告)
きを - 愛してます。一生更新待ってます。 (12月11日 8時) (レス) @page50 id: afeed903d8 (このIDを非表示/違反報告)
あぽろ(プロフ) - 最近ディズニーのハモカラみてベイマ再熱してこの作品という神作品に出会えました、、、なにとぞ、更新をいつまでも待っています、、、、 (9月27日 23時) (レス) @page50 id: ebcad6c5f5 (このIDを非表示/違反報告)
ame(プロフ) - 更新を…待っています…なにとぞ… (8月16日 13時) (レス) id: 7d07391b49 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：たーた | 作成日時：2015年2月9日 23時
