ただ君を好きになっただけ。《 in × kt 》

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その日の夜、けいとが帰ってから俺は1人で珍しく缶ビールを空けた。

もしかしたら、今日のことすべてお酒のせいにしたかったのかもしれない。

グイッと喉に流し込めば、程よく冷えたアルコールが全身に染み渡るような感覚がした。久しぶりに飲んだお酒は美味しいけど、なにか物足りなさを感じていた。




キスをした、あの時のような充実感はどこにもない。

けいとの気持ちを知った幸福感はどこにもない。

そして、お互い同じ気持ちでそのまま報われる未来が待っているなんてこともない。




あるようでない。それは、ないのと同じ。









「......けど、やっぱりあるんだよなぁ」







そっと唇をなぞれば、思い出すのは触れた瞬間のこと。

思っていたよりもふっくらとしていた唇は、何度か唇を重ねたあとも艶っぽく見えて俺を翻弄しようとした。

これから、どんな顔をしていいのか分からない。けど。

"好き"という気持ちをただ感情と同じようにけいとがインプットしているということだけが救いだから俺は変わらずこのまま気持ちにフタをし続ければいい。

そうしたらまた今日みたいなことがあったとしても、それだけで済むから。これからも仲良く2人で話せるって信じてたから。









__________けど、世界はそんなに甘くなかった。








まさか、これが最後になるなんて。



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