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屋敷、くらいの言葉が似合う部屋の中で、不釣り合いにも目の前に置かれた昆布茶の湯呑みが湯気をたてる。
独特の匂いにつられ、口の中に湧いた塩気を飲み込んだ。
裕翔「で?俺に何か用?」
真っ直ぐに俺を見て、テーブルから少し身をのりだし口角を上げる。何も知らないとでも言いたげな口ぶり。
飛び出しそうになる言葉を、俺の中の俺が掴んで引き下げた。
しばらくの沈黙。
意を決して、俺は重い口を開いた。
圭人「…全部、裕翔なの?」
情けないほど小さくて、震えた声が部屋に響く。裕翔は、「ん?」と眉毛を動かしただけだった。
きっと裕翔は、俺がもう一度訊くのを待っていたから。
今度ははっきり、真っ直ぐに伝えた。
圭人「大ちゃんの目の前で俺を捕まえたのは、本当に裕翔なの?」
裕翔「ああ、そうだけど」
俺の重さとは正反対、返事はやけにあっさりしていた。
圭人「どうして?そんな事…」
裕翔「え、それ聞く?」
裕翔はケラケラ笑った。
お腹を抱えて勝手にひとしきり笑って、こちら向き直ると、いとも簡単に言葉を吐く。
裕翔「おもしろいからだよ」
圭人「…冗談で言ってるの?」
裕翔「まさか。」
ずい、と身を乗り出した裕翔の、何色も混ざり合い濁った黒い瞳に、弱々しい俺が映った。
裕翔「これはゲームなんだよ、圭人。
いかに美学に沿ってメンバーを潰すか。そのためにカラスを生み出したし、本当の翼だって隠して…」
視線が逸れた気がした。長い睫毛がくっきりと影を落とす。
ベランダから風が流れる。はっきりと黒い髪も、黒い艶のある羽根も、さらりと揺れた。
裕翔「みんな、本当によく俺のシナリオ通りに動いてくれるよね。いのちゃんの覚醒だってさ。」
嵐の中、苦しげに空をのたうち回るいのちゃんの姿がフラッシュバックする。息が詰まる。勝手に細かく震えだす身体に、冷たい汗が流れた。
何度、俺は言葉を振り絞ればいいんだろう。情けなくなった。
圭人「いのちゃんは…?どこにいるの、」
裕翔「ん?ああ、あっちにいるけど。眠ってるよ、まだ役目があるからね」
裕翔は部屋の奥に目を遣った。
そこには青いベッドがあった。
いや、青く見えるのは、幾重にも重なった青い花弁だった。
溢れんばかりの花に埋もれ、白く綺麗な寝顔がちらりと見えて、気付くと俺は駆け出していた。
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ユキ(プロフ) - ききさん» 前回に引き続き、ありがとうございます!励みになります(^-^)/ (2018年1月28日 18時) (レス) id: a8713bcbc6 (このIDを非表示/違反報告)
きき - 移行おめでとうございます!憑いてる!?シリーズからずっっっっとユキさんの作品を読んでますが相変わらず面白いですね(*^▽^*)これからも楽しみですヽ(*´∀`) (2018年1月26日 21時) (レス) id: b5dd81d92a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ユキ | 作成日時:2018年1月23日 0時