青の秒針【不二周助】 (ページ8)

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さて、春に死んだ少女の話をしようか。

ひとつひとつ回りながら、過去の彼女との思い出を振り返る。まずはここ、中学テニス部が使うテニスコート。

彼女のことを初めて認識したのは中一の春。テニス部の見学をしに来た時の事だ。彼女は既に、上級生に混じりボールを打っていた。特に劣りもしないどころか、全国レベルの女テニのレベルに引けを取っていなかった。

名前だけは、聞いたことがあった。立海の幸村と同じで、全国トップの女子だ。ただ僕は、あまり上に興味がなくて顔までは覚えていなかったので名前を聞くまではわからなかった。

とにかく、惹かれたことを覚えている。男テニの見学に来たのに、いつの間にかそちらを見ていた。綺麗なフォームと楽しそうな横顔。キラキラと太陽で輝く汗を拭い、またラケットを構える。今まで聞いた中で最高に心地の良い音がコートに響く。

誰よりも純粋にテニスを楽しむ姿に、激しく憧れを覚えた。憧れだと思っていた。目が離せなくなった。鼓動が早くなって、世界が輝いて見えた。

ふと、目があったのも覚えている。僕は僕らしくなくすぐに目を反らしてしまった。恥ずかしい、なんて。笑ってしまう。僕は幼かった。

本来の目的を思い出して男テニに目を戻すけれど、そのキラキラとドキドキが、気になって仕方なかった。きっと僕にはないものを持っていたから。

次の日の席替えで隣の席になったときは、本当に驚いて、僕、冷静でいれてたかななんて。今さらどうにもならないけど。

今ならきっと、それは憧れだけじゃなくて、

隣の席になって。いくつか、たわいのない話をして。僕も、テニス部に入って。時々、一緒にテニスをした。秋頃には僕らは、親友と呼べる関係になっていた。とても、幸せだった。僕らはきっと、幸せすぎた。

ああ、ここにはいないのか、と次の場所へ足を進める。次は、裏庭の花壇へ。

もうなんとなくどこにいるのかはわかっているのだけど。待たせちゃってごめんね。