青の秒針【不二周助】 (ページ4)

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手塚国光が死んだのは、ちょうど、世界のトップ10に手をかけようとしていた、そんな時だった。

最初こそ少し苦労したものの、その努力と才能は裏切ることなく彼を上へと押し上げた。随分とあっという間だったと思う。テレビで彼を見ない日はなかった。僕は、そんな彼を心から誇りに思っていた。

天才は早死するのなら、僕も殺してくれたっていいのに。

結局僕は、天才でもなんでもないのだ。本当の天才は、彼や、＿＿彼女のことを指すんだろう。

嗚呼、大切な人を失くすのは、今年に入ってから2度目だ。

「……くん、不二くん」

「……ああ、おはよう、A」

席について、重い鞄を置けば、隣の席のAが僕に声をかけていることに気付いた。おはよう、と返せばやっと気付いた、と嬉しそうに笑う。そして、僕の机の前で立て膝をついて自然と目の前に入ってくる。

「一週間ぶり！不二くんいなくて寂しかったよ～」

彼女は、少し、影が薄い……と言ったらいいのだろうか。僕以外の人に話しかけることも、話しかけられることもきっとない。僕以外に友達がいない、そんな感じだ。だからきっと、僕がいない一週間、ずっと一人だったんだろう。笑ってはいるけれど。

「ごめんね、ちょっと考え事してて」
「1週間も？」
「うん」

変なの～、と口に手を当て小さく笑う。

「それで？考え事は終わったの？」
「終わった、っていったら嘘になるけど。まあある程度はね」

考えるだけじゃわからないこともあるからね、と苦笑いをする。ふーん、大変だね！と他人事のように返されたのだけど。

「それで、今日は昼、大丈夫？」
「うん！もちろん！不二くんとお昼、楽しみだなぁ！」

ねえ、そろそろ現実を見ないと。
見れる現実なんか、君にはないかもしれないけれど。