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あの日は結局、打ち合わせをして帰宅した。帰り道、もやもやした気持ちが晴れず、変な罪悪感と焦りに駆られた。誠知くんのことをすきなのかもしれない結城さん。それを言わず、誠知くんと付き合っている私。結城さんと私は仕事関係者なのだから、わざわざプライベートな話をする必要はないが、今回に限っては訳が違う気がした。
もし私が結城さんの立場だったら、言ってほしいって思うのかな。でも、実は誠知くんと付き合ってますって言うのも、それはそれで感じ悪いな。ああでも、隠してて、結局バレてしまったら、彼女はきっと傷付くはず。
もう、どうすれば良いのだろう。
「眉間、」
「……え?」
「眉間の皺、すごい」
「……え、あ、ごめん!」
「仕事中なんだから集中」
「…はい、ごめんなさい」
悶々としていたら、誠知くんに叱られた。
実は今、誠知くんの絵を描かせてもらっているところだ。トップバッターが誠知くんと告げられたとき、分かるひとが最初でよかった、なんて思っていたのに、今の心境としては非常に複雑で。
椅子に座って携帯を触る彼を、じっと見つめた。好きなようにしていてほしい、とお願いした。自然体でいてもらう方が、こちらとしても描きやすいからだ。相変わらず綺麗な横顔だなあ、羨ましい。
集中集中、と心の中で呟いて、再び彼と向き合う。ツン、と高い鼻と薄めの唇、スっと切れ長な瞳からは秘めたる意思みたいなものを感じる。少し俯く彼は、年下なんかに見えないくらい大人らしくて、ただ、たまに見せる笑顔は少し幼い。
すきだなあ、と思う。笑顔がみたいなって。
「誠知くん、」
「ん?何?」
「ちょっとだけ笑ってくれないかな?」
「…自然体でいてってさっき、」
「うん、そうなんだけど、少しだけ」
「……やだ。恥ずい」
「ええ、なんで」
「言われて、笑顔作るとかむり。仕事だけど、葵は彼女だし」
「……」
ーーー彼女だし
改めて言われると、破壊力抜群だ。思わず私まで恥ずかしくなってしまって、俯いてしまう。
「なんで葵が照れてんの…」
「……うん、ごめん」
「いや、別に謝らなくてもいいけど。筆止まってますよ」
「…はい、ごめんなさい」
しばらくして、描き上がった誠知くんは、やっぱり情が移ってしまっている気がした。そして彼もそう思ったらしく、
「…俺と葵が付き合ってるって、なんかすぐにバレそうな気がしてきた」
そう、小さく呟いていた。
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aoi(プロフ) - みゆうさん» こちらこそです*楽しみにしています。 (2019年3月5日 1時) (レス) id: 1e8b3648c1 (このIDを非表示/違反報告)
みゆう(プロフ) - aoiさん» 見てきただけて嬉しいです!ありがとうございます! (2019年3月4日 22時) (レス) id: faf8ae436c (このIDを非表示/違反報告)
aoi(プロフ) - みゆうさん» とてもありがたいお言葉ありがとうございます…!意識している部分でもあったので、嬉しいです*そして実は私、みゆうさんのおはなし拝見させてもらってます。私こそ更新楽しみにしています* (2019年3月1日 0時) (レス) id: ddb827d49e (このIDを非表示/違反報告)
みゆう(プロフ) - aoiさんの書く小説、主人公の見ている景色や生活の雰囲気だったり、想像力が膨らんで、心がほっこりする言葉の使い方が凄く好きです。更新楽しみにしています! (2019年3月1日 0時) (レス) id: faf8ae436c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:aoi | 作成日時:2019年2月28日 23時