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「…っん…ぅ」



ああ、きれいなものを汚しているって、こういう背徳感に苛まれるのか、そう思った。無垢な美しいものを、自分色に染めているような感覚。自分の中にこんな、言葉にできないようなどろどろした欲があるなんて。

キスの隙間から、漏れる吐息。苦しそうにする抵抗するのもお構いなしに、どんどん染まってしまえばいい。そう、思った。

酸素を求める唇が逃げないように、頬を包む。首筋に優しく触れる。葵の体から、少しずつ力が抜けた。



「……っはあ、は…っ」

「…」

「…っ、せい、じく、」

「……何?」

「怒って、」

「……」

「ごめんなさ、…っわたし」



はしたないこと、と呟いた彼女の瞳から、もう一度涙が流れた。いくら汚してもきっと、この涙は美しいんだと思った。でももう、涙ごとすべてほしい。



「…葵はきれいだから」

「え…?」

「俺にとって触れてはいけないようなひとだった」

「せいじくん…?」

「汚いものに触れてほしくない。例えば、いやな言葉とか、怒りとか」

「…っ」

「…こういうのも、それのひとつに思えてた」

「そ、んな」



葵の瞳が、少し赤くなった。どきり、と胸が鳴る。いけないことをしてしまったような、そんな気持ちになった。



「…それは、違うよ」

「…」

「私はそんなに美化されるものじゃないよ…」

「…葵」

「それに、私にとっては誠知くんの方がよっぽど、きらきら光っていて、眩しいひとなの。だから、そんな自分が黒だと思わないで」

「っ」

「私は誠知くんに触れてほしいと思うし、触れたいって思う。…ただの恋人だよ、」

「大切、なんだよ」

「…うん、うれしい。誠知くんの思いやりも、ちゃんと伝わってます」

「葵、」

「すき、誠知くん」



ーーーいつまでもきれいなんだろうな


まっすぐ捉える瞳や、微笑む唇や、困ったように下がる眉毛や、赤く染まる耳朶や、前髪から覗く額や、白い肌や、華奢な肩や、細い指や、絵の具のついた指先や、何も塗られてない短めの爪が。

ずっと隣にいてくれるなら、もうなんでもいいと思えた。なんだか今までの戸惑いが馬鹿らしくて、ふっと笑ってしまう。

でも、もう我慢はやめた。



「葵、」

「誠知くん?」

「…すきだ」

「…っ」

「全部、俺に見せて」



そのまま、もう一度、きみにキスをした。




_fin
好きすぎて手が出せない誠知くん
それが不安で勇気を振り絞っちゃうおはなし

終わり ログインすれば
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aoi(プロフ) - みゆうさん» こちらこそです*楽しみにしています。 (2019年3月5日 1時) (レス) id: 1e8b3648c1 (このIDを非表示/違反報告)
みゆう(プロフ) - aoiさん» 見てきただけて嬉しいです!ありがとうございます! (2019年3月4日 22時) (レス) id: faf8ae436c (このIDを非表示/違反報告)
aoi(プロフ) - みゆうさん» とてもありがたいお言葉ありがとうございます…!意識している部分でもあったので、嬉しいです*そして実は私、みゆうさんのおはなし拝見させてもらってます。私こそ更新楽しみにしています* (2019年3月1日 0時) (レス) id: ddb827d49e (このIDを非表示/違反報告)
みゆう(プロフ) - aoiさんの書く小説、主人公の見ている景色や生活の雰囲気だったり、想像力が膨らんで、心がほっこりする言葉の使い方が凄く好きです。更新楽しみにしています! (2019年3月1日 0時) (レス) id: faf8ae436c (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:aoi | 作成日時:2019年2月28日 23時

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