*sugar ページ40
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ーーーどんどん美しくなっていく。
一度、彼女の世界に潜り込んで、どんな景色が見えるのか感じてみたい。きっと俺には黒に見えるものが、白に見えたりするんだろう。万人には黒でも、きっとあの人はきれいに摩り替えてしまう。
黒のリュックにはいつも小さなカメラとスケッチブックを忍ばせて、ハイウエストのデニムにはAのロゴ。お気に入りのそれはもう長らく履き続けているらしい。ふわふわした髪が、風に揺れる。それが、たまらなくきれいで、見つめてしまいそうになる。
そんな彼女と、もうしばらく会えていない。今日、久しぶりに葵が俺のマンションに来ることになっている。お互いに会えずにすれ違っていた。特に彼女は、都内に行くことが増え、飯食ってんのかな、と心配になるくらい、忙しく働いている。
もう、夜も遅い。心配になって連絡を入れようか迷っていると、部屋に音が響いた。嬉しくなって、すぐに玄関に向かってしまう。
「遅くなってごめんね…!」
扉を開けると、開口一番は謝罪だった。ぱっと顔を上げた彼女は、そのまますぐに俯いてしまって、思わずどうしたのかと心配になっていると。
「…なんで、半裸なの……」
「え?…あ、ごめん。シャワー出たばっかで」
小さく呟く声と、頬の赤さ。かわいくて、つい笑ってしまう。それに臍を曲げたのか、すっと横切ろうとする葵から、いつもの優しい香りがした。
だから、捕まえたくなった。
扉が閉まる音と同時に、華奢な背中を優しく包む。ふわふわな髪に顔を寄せると、さらに惹き付けられて、なんとも言えない欲に駆られてしまう。それを、ぐっと抑えるのは、毎度のことながら大変。
少し抵抗する彼女。ただ、それは微々たるもので、すぐに腕の中に収まってくれるから、愛しくて力を込めて抱きしめてしまう。
「久しぶり、葵」
「…うん、久しぶりだね、誠知くん」
顔見せて、と葵は言う。力を緩めると、体を反転させた彼女と目が合う。丸い瞳が上目遣いで覗き込む。何かを生み出したいと嘆く、きらきらした瞳だ。そのまま薄い掌が伸びて、俺の両頬を、ふわり、包む。
「ふふ、」
「…っなに?」
「照れてる?」
「…照れてない」
「うそつき、」
「ほんとに」
「だって、頬があかっ」
そう楽しそうに話す彼女を、食べてしまうようなキスをした。キスですべて、隠してほしい。
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久しぶりに描くふたり。楽しい。短編です。
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aoi(プロフ) - みゆうさん» こちらこそです*楽しみにしています。 (2019年3月5日 1時) (レス) id: 1e8b3648c1 (このIDを非表示/違反報告)
みゆう(プロフ) - aoiさん» 見てきただけて嬉しいです!ありがとうございます! (2019年3月4日 22時) (レス) id: faf8ae436c (このIDを非表示/違反報告)
aoi(プロフ) - みゆうさん» とてもありがたいお言葉ありがとうございます…!意識している部分でもあったので、嬉しいです*そして実は私、みゆうさんのおはなし拝見させてもらってます。私こそ更新楽しみにしています* (2019年3月1日 0時) (レス) id: ddb827d49e (このIDを非表示/違反報告)
みゆう(プロフ) - aoiさんの書く小説、主人公の見ている景色や生活の雰囲気だったり、想像力が膨らんで、心がほっこりする言葉の使い方が凄く好きです。更新楽しみにしています! (2019年3月1日 0時) (レス) id: faf8ae436c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:aoi | 作成日時:2019年2月28日 23時