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「…そこは、初めまして、ではないでしょうか?」
沈黙を破ったのは、結城さんだった。固まってしまったふたりを、不思議そうに見つめていた彼女は、その雰囲気に耐えられなかったようで口を開いた。
「え、あ!そうですよね、すみません」
「でも、突然選手が現れたら、驚いてしまいますよね。しかも誠知くん、大きいし表情ないし」
「…さり気なくディスるなよ」
ごめんごめん、と誠知くんに彼女は謝る。そんなとき、結城さんの携帯が小さく音を立てた。彼女はまだ気付いていないようだったが、私は反射的にぱっと顔を上げてしまった。すると、誠知くんと視線が合う。そのまま、ふと、彼は静かに笑った。
「咲、電話鳴ってる」
「え?あ、本当だ」
「…俺、この人とそこの別室で待ってるわ」
「うん、分かった。葵さん、ごめんなさい。ちょっとお待ちいただいても良いですか?」
「……あ…は、い」
本当は嫌です結城さん…!このひと、すごく悪い目をしているんです結城さん……!
心の中で必死に訴えても、彼女は去っていってしまた。ヒール音が小さくなるにつれ、ふたりの沈黙は大きくなる。恐る恐る、背の高い彼を見上げると、笑顔なのに据わった目をしていた。さっと、自分が青ざめるのを感じる。
「別室まで案内しますね、¨葵さん¨」
「……」
うわああ、すっごい!棘がある!
何も言えずに黙ったまま、大きな歩幅で歩く彼の後ろに付いていく。怒ってるのかな、やっぱり嫌だったのかな、どうしよう。そんなことが頭の中をループして、ぎゅっと目を瞑った。
案内された部屋の扉を開けてくれた誠知くん。先に入るように促され、ゆっくり入っていくと、応接室のような作りの部屋だった。綺麗な部屋だなあ、なんて思っていると、扉が閉まる音と、カチャ、という音。
ーーーカチャ…?
「…っ、誠知くん、鍵…」
「うん、閉めた」
「閉めたって…結城さんが入れないよ」
「……だから、閉めた」
「え?」
「どういうことか、ちゃんと説明してもらえますよね?」
「……」
非常にピンチです。誠知くんの怒っているような、それなのにどこか楽しそうな表情に、私の頭は危険信号を鳴らしていた。わざと優しい口調で話してる、絶対そう。
はは、っと全力の苦笑いをしながら、少しずつ後ずさりをしたけど、じりじりと迫ってくる誠知くん。こつん、と踵が壁に当たり、横に逃げようとする私を、彼の両手が阻止した。
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aoi(プロフ) - みゆうさん» こちらこそです*楽しみにしています。 (2019年3月5日 1時) (レス) id: 1e8b3648c1 (このIDを非表示/違反報告)
みゆう(プロフ) - aoiさん» 見てきただけて嬉しいです!ありがとうございます! (2019年3月4日 22時) (レス) id: faf8ae436c (このIDを非表示/違反報告)
aoi(プロフ) - みゆうさん» とてもありがたいお言葉ありがとうございます…!意識している部分でもあったので、嬉しいです*そして実は私、みゆうさんのおはなし拝見させてもらってます。私こそ更新楽しみにしています* (2019年3月1日 0時) (レス) id: ddb827d49e (このIDを非表示/違反報告)
みゆう(プロフ) - aoiさんの書く小説、主人公の見ている景色や生活の雰囲気だったり、想像力が膨らんで、心がほっこりする言葉の使い方が凄く好きです。更新楽しみにしています! (2019年3月1日 0時) (レス) id: faf8ae436c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:aoi | 作成日時:2019年2月28日 23時