恋の炎色反応〈QK〉

君の笑顔も __ kwmr ページ33

「Aさん、？」

「ごめんなさい。私たち、別れましょうか。」

「え、？」


どうしてもいえなかった、貴方だけには。

この体を病気が蝕んでいるなんて。



東京にしては珍しい小さな駅のホームで電車を待った。

いわゆる難病。

そんなものに簡単に体を乗っ取られてしまった私は最後の旅に出た。

なんて、ただ遠くの病院に行くだけだけど。

もうすぐ、たった2ヶ月後に最期を迎える場所に。



桜の見えるホームで揺れる桜を眺めた。

大きく膨らんだ蕾が、私とは反対に明るい未来に向かって揺れていた。

立っているとだんだん疲れてベンチに腰を下ろす。

嗚呼、もう立ってもいられないほどにボロボロなんだ、なんてここまでくると笑えてきた。

私はもう死ぬんだ。

嗚呼、この町にもお別れか。

河村さんと出会ったこの町にも。



初デート。

2人ともガチガチに緊張して、その顔を見てお互い吹き出したっけ。

楽しませよう、なんて思うたび出てくるのは下らない話題ばかりで、

えっと、えっと、なんて。

伝えたいことは山ほどあるのに、2人でゆっくり喋ったな。

それからゆっくりゆっくり恋人になって、

そうやって貴方の笑顔も、泣き顔も、全部知り尽くしたはずなのに、


「じゃあね」


なんてあの時呟いた河村さんの顔はどうしても見れなかったんだ。



嗚呼、ようやくお迎えがきたようだ。

小気味のいい汽笛の音を響かせて、電車はホームに滑り込んだ。

慌てて駆け下りる人と、どこか苦行のような顔をしたサラリーマン、穏やかな顔をした老夫婦と、子供を挟んで幸せそうな家族。

私はこの街の空気を最後にいっぱいに吸い込んで電車に乗った。





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