頑張る【平古祥平】 (ページ3)

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一生懸命ページ3

*見習い時代

「おはよーございまーす」
エスコフィユに一番最初に来るのは祥平。
下っ端の見習いだからだ。
誰よりも早く来て、掃除を始める。
床やシンク、コンロはもちろん、冷蔵庫や鍋などもピカピカにし、完璧な状態で従業員を待つ。
待つ間もトイレ掃除など、本来清掃員の仕事であることもこなしている。
「おはよう」
「おはよーございます」
慣れないフランス語に、舌ったらずになってしまう。
「おはよ」
低い、慣れ親しんだ言葉が聞こえてくると、安心する。
「おはようございます！」
エスコフィユの料理長、尾花夏樹だ。
祥平は尾花を尊敬している。
いつも尾花さん尾花さん尾花さんだ。
「祥平、また掃除してたろ。別にしなくていいよ。」
こう言うのは京野陸太郎。
尾花のビジネスパートナーのようなものだ。
「いえ、好きでやってるんで。」
尾花も、京野も祥平には甘い。
一番年下で、親子、といったら言い過ぎだが、かなり年が離れているからだろう。
もう成人した立派な大人だが、二人にはまだ子供に見えている。

二人が今日のディナーを相談しながら去っていき、祥平はほっと息をついた。
今日は、朝から頭が痛い。
原因は分かっている。
このどんよりとした天気。

偏頭痛だ。
昔から偏頭痛に悩まされてきた。
薬を飲めど、祥平には合わず、それどころか吐き気、眠気を催すことがあった。
フランスでもいい薬は見つからず、今では薬を服用していない。
祥平にはもう１つ持病があった。
少し走ると息が切れる。
煙が立ち込める実家の工場では、咳が止まらない。

喘息だ。
何故だか分からないが、偏頭痛の日は特に酷く、あまり煙は吸い込めない。
だが、まだ半人前の自分。帰るわけにも、休むわけにもいかない。
祥平は自らを奮い立たせ、見習いとして厨房に立った。