君とゼロから (ページ38)

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38 透明の水ページ38

グラウンドに集まる生徒の間をくぐりぬけ、僕は校門まで走る。

しかし、校門前、辺りを見渡しても誰もいない。

時計を確認すると既に約束の時刻から30分が過ぎていた。

僕は校門から少し歩いて、Aと初めて待ち合わせをした場所にずるずると座り込んだ。

＿＿＿

彼女と初めての待ち合わせは確か雨だった。

今でもよく覚えている。

雨が降る中、一人だけ傘を差していない女の子がいて、

彼女はとても重たそうなリュックを前に背負って傘を探していた。

でも、あのリュックには見覚えがあった

＿＿＿間違いない、夜中に会った女の子だ

確信した僕は、彼女に傘を差し出した。

彼女とはほとんど初対面のはずなのに、僕は彼女に色々話したくなった。

多分それは、彼女の声のせいだった。

彼女の声は、例えるなら〝透明の水〟だった。

激しく降る雨の音の間を縫って、すっと僕の耳に入るその声に僕は癒されていた。

＿＿＿

Aがあれからどうしていたか、僕はほとんど知らない。

あの日＿＿ヴィラン連合と対峙した日のことは世間には公にされず、僕は彼女との面会を許されなかった。

彼女の個性が類を見ない個性だったために、極秘に調査していると、後に塚内さんから聞かされた。

僕は膝に顔を埋め、ただ、彼女がきてくれることを待った。

突然、どこからかかすかに風が吹き、ふわり、と僕の髪を揺らした。

「出久、久しぶり」

あの日と変わらない、透明の水のような声が僕の耳をくすぐった。

僕は驚いて顔を上げる。

Aは僕と同じ歳とは思えないくらい大人びていたけど、一直線に結ばれた口がふいに緩んで、ふふっと短く笑うと、当時のAと重なりあった。

「出久、ちょっと大人っぽくなったね」

「…A…なんだよね？」

僕は立ち上がり、Aの頭頂部から足元まで何度も目を往復させた。

「そうだよ！忘れちゃった？」

「忘れるわけ…ない…！」

僕はAを強く、強く抱きしめた。