君とゼロから (ページ31)

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神野区の一角の地下室にあるバーが今の俺たちの拠点だ。

備え付けの小さなテレビには、ヒーロー特集だの事件解決などろくなものしか映らない。

「どいつもこいつも口を開けばヒーローの話かよ」

机に並べられた無個性人間だけをリストアップした写真＿＿＿その中の一枚を持ち上げる。

世界総人口の2割が無個性らしいが、この国は圧倒的に無個性が少ない。

その中でも〝あれ〟が適用するのは耐性のある10代から20代、なんらかの病がないことだ。

零谷A＿＿この国でやっと見つけたあんただけが希望だ。

それなのに＿＿

俺は苛々をテーブルにぶつける。

＿＿＿全部オールマイトのせいだ！

あいつはどこからともなくあらわれ、いつも俺の邪魔をする！

「死柄木弔、落ち着いて下さい」

黒霧がグラスを拭く手を止め、こちらを見つめる。

俺は黒霧を睨みつけた。

「落ち着いていられるか。あの女はどこにいるんだ」

「…申し訳ありません。どうやら場所を転々としているようで中々把握できず…」

「言い訳は聞いてねえよ。お前がワープゲートじゃなきゃ崩してた」

俺はおもむろにポケットから緑の液体が半分ほど入った注射器を取り出した。

これをあの女に刺すだけで全てうまくいく、そうだろ、〝先生〟＿＿＿＿

今や希少な存在となった〝無個性〟にだけ与えられる最強の〝個性〟＿＿＿刺されたものは、オールマイト、いやそれ以上のパワーとスピードを持つと言うのだ。

何もない、ゼロからの急激な成長というのは計り知れないものがある。

『苦戦しているようだね、弔』

テレビが突然ニュースから砂嵐に切り替わる。

先生が来たときの合図だ。

「…先生！あとはやつの居場所を特定するだけだ」

『まあそう焦るな、彼女は今雄英にいる』

「…は？」

俺は反応に遅れた。

全く想定外の場所だ。

『彼女は雄英の寮に住んでいるようだね。しかし慣れない生活に疲弊している。分かるかい弔？私からはここまでだ。君なら世界を変えられるさ』

テレビは再びニュースへと切り替わった。

「…ああ、分かったよ。先生。今がその時だ。黒霧、準備だ。次失敗したらどうなるか分かってるよな？俺の言う通りにしろ」

「…はい、死柄木弔」

今が絶好のチャンスだということは間違いなさそうだ。

これでヒーロー社会に終止符が打てると思うと、初めて味わうような高揚感が襲い、口角が上がっていくのが自分でもわかった。