君とゼロから (ページ28)

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28 知らない努力ページ28

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明日は久しぶりの休みだ。

携帯の電源を入れると、Aから新着メッセージが来ていた。

通知には、『明日オフなんだけど、ご飯一緒に食べない？』と表示されている。

僕はすぐに『いいよ』と送信した。

Aは基本厨房にいて、僕たち学生と顔を合わせることはない。

この1ヶ月、メッセージのやり取りはしていたものの、一度も顔を合わせていなかった。

だから、会えるという事実が作られただけで
身体の疲労感が抜けていくような感覚になった。

＿＿

「わ！出久久しぶり～！わざわざ寮の前までありがとう」

1ヶ月ぶりとはいえ、僕はそれ以上に長く感じた。

僕に駆け寄るAは、前より少し痩せた気がした。
　

「ううん！久しぶりに会えて嬉しいよ！僕も今日はオフだから」

「あ、ねぇ出久、私の部屋で食べようよ！私なんか作るからさ」

「ええ！いいの？」

「うん！出久が初めてのお客さんだ」

雄英から徒歩3分のところにある寮は、昔はよく当時の生徒が使っていたそうだが、今はAの部屋以外、先生の作業場や物置になっているそうだ。

「出久あがって！ごめんまだ片付いてないところあるけど」

Aの声に、「おじゃまします」とそっと部屋に入る。誰かの部屋を訪ねるのは初めてだった。

「アルバイトどう？」

お茶を淹れてくれているAに声をかける。

「…まあ普通かな。なんとかやってる」

その表情は見えないけど、僕は、Aが無理をしてるんじゃないかと悟った。

Aが本音を言わない時は、いつも少しだけ間がある。

テーブルにお茶を置くと、Aはキッチンに戻り、今度は手際良く料理を進めた。

食べ物が炒められている音はいつも心地いい。

香ばしい香りが部屋を満たしていく。

「お待たせしました～」

真ん中に生卵が落とし込まれた炒飯が僕の前に置かれた。

そのはずみで生卵がプルンと揺れると、艶やかな米粒に染みていく。

口に入れればとろけるようなその感覚に、思わず僕は「美味しい」と口に出していた。

「ほんと？よかった。そう言ってもらえると何だか照れるなあ」

控えめに顔を抑えたAの指を見ると、ところどころに切り傷が見えた。

「料理したことないから相当頑張らないとね」と言っていたAの言葉を思い出す。

その言葉通り、きっと相当な努力をしているのだろう。

Aを見て、僕も見習わないといけないと思った。