君とゼロから (ページ18)

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＊＊＊

「お邪魔します」

「ど、どうぞ上がってください！！」

自分の家なのに、なぜか緑谷くんの方がおどおどしている。

「ふふっ、なんでそんな緊張してるの？」

「いや…女の子が家に来るなんては…は、初めてで！」

「私も男の子の家にお邪魔するのは初めてだよ」

「そうなんだ！えーっと…とりあえずシャワー浴びてきていいよ！お湯もためてくれていいから！…あ…着替え！僕のよかったら使う？」

「着替えはまだあるから大丈夫だよ。ありがとう、何から何までほんとごめんなさい」

「ううん！気にしないで！」

浴室の静寂を掻き消すように、強い雨が今も降り続いている。

久しぶりに湯船に浸かり、疲弊していた身体がようやく甘く溶けていった。

これからどうしていけばいいのか

やっぱり帰った方がいいのか

考えなければならないことは沢山あるけど

私は今、きっと幸せの絶頂にいるから、

それらを全部放棄してしまいたくなった。

＿＿

「お先です」

リビングでテレビを見ている緑谷くんに声をかける。

「あ！Aさん早いね！もっとゆっくりしてくれてよかったのに」

「ううん！でも久しぶりに湯船に浸かれて気持ち良かった」

「それならよかった！あ、僕も入ってくるね、ドライヤーそこに置いてるから使って！」

今日だけで何十回、世の中にはこんなに優しい人が
本当に存在するのかと疑う気持ちになっただろう。

ソファの前に座り、緑谷くんが見ていたヒーロー特集の続きを見ながら、髪を乾かす。

胸の辺りまで伸びた髪を摘んで、そろそろ切ろうかなと思った。

いや、

緑谷くんにショートかロング、どっちが好みなのか
聞いてから決めよう

と、思い立ち、摘んでいた毛先を離す。

他人の好みに合わせるなんて、私らしくなかった。

それほどまでに、緑谷くんに惹かれてしまっているのかもしれない。