呼び直し。2 ページ13
呼び直しとは……と思いながら目を丸くして首を傾げていると、苛立った様子で彼は呟いた。
「僕だけ苗字呼びだったら何かあったのかとか言われて面倒くさい事になるデショ。変にわーわー言われたくないんだけど」
「!あ、ああ……!そっかごめん……!」
「別に」
確かにそれもそうだ。何もしてないのに何か言われたら溜まったものではないだろう、という事は下の名前で呼んでよかったんだな、と幾分か私はホッとした。
「じゃ、じゃあつ……じゃない蛍くん。ワークやろっか」
「──やる気あるの?」
「す、すみませ……っ!」
いきなり月島くんとまた呼びかけてイラッとした視線を向けられる。こわい。
「ほら呼び直し。そういえば練習試合の時の呼び直しもまだだったね、それも含めて呼び直し」
それも含めてって何!?と言いかけたがそれを言うと確実に更に機嫌を損ねそうであったので何とかぐっと飲み込むと、とりあえず名前を呼ぶ事にした。
「け、蛍くん」
「さらっと言えないの?」
「──蛍くん」
「なんで間が空いたの」
「蛍くん……!」
「泣きそうに呼ぶのやめてくれない?」
「ごめん蛍くん」
「謝罪はいい」
「蛍くん」
5度目でようやくスッと呼べた。めちゃくちゃ手厳しいんだけど何なんだ……と内心叫んだが、漸く納得したのか蛍くんは教科書を開いた。ワークに入るまでが長すぎる。
「言っとくけどまた苗字で呼びそうになったり変に詰まったりしたらどこだろうが練習させるから。……さっさとやるよA」
「厳しすぎない!?!?」
思わず声を上げたがもの凄くあっさりスルーされた。と、ふと気付く。
(あれ?そういえば今下の名前で呼ばれたな……)
てっきりああいうのは好きではないのでは、と思っていたが、意外にそうではないのだろうか。私が一人だけ呼び方を変えていたら確かに何か言われるだろうが、蛍くんは別にこちらを何と呼んでも構わないのではと思う……まさかと思うけど。
(……呼び合いしたかったとか?)
「……ないな」
だってつい今一人だけ呼び方が違ったら何か言われるって言ってたし、こちらの呼び方もそう。彼に限ってそれ以上でもそれ以下でもないだろう。
「何が」
「いっ!?ごめんなんでもない!!」
一人納得していたら冷たい視線が飛んできた。いや怖い怖い!
慌てて視線を教科書へ落としてワークに集中する。
だから気付かなかった。そのまま慌ててワークをするこちらを見ていた蛍くんが、ほんの僅かに楽しそうに笑った事を──
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作者名:さくら | 作成日時:2020年3月29日 2時