試合直前 2 ページ25
前に本屋さんの帰りで会った時、いつでも来ていいと言ってくれていたのに失敗だった。折角なら夏休みの間のどこかでお言葉に甘えて覗かせて貰えばよかった。そうしたらもうちょっと資料を作る時にも役立てたかもしれない。
そう、実は私と潔子先輩と仁花ちゃんの3人で、皆の為に対白鳥沢マニュアルなるものを制作していた。それは昨日の試合後、学校へ帰った後のミーティングの時に皆に配らせて貰っている。
当然、それだって3人でしっかりと色々調べて纏めたものなので間違いなく役に立つ筈。でも、直接目の前で見ているのと見ていないのとでは違ってくるものだってあったんじゃないかと思うと悔やまれる。
次の機会は無駄にしないようにしなくちゃ───
そんな事を考えていると、烏野のコート練習の順番が来た。皆と共にコートへ入る。と、視線の先に翔陽くんの姿が見えてホッとする。ちゃんと戻ってきてる、よかった。
ボールを持っていざお手伝いだ、と思った次の瞬間、観客席から女の子の声が聞こえて来た。
「見てー！あんな小っちゃい子いる！補欠かな？」
「なんか可哀想になるね……」
「どうしても弱い方応援したくなっちゃうよね……」
「──む！？」
「──おいお前ら、昨日のアレやったれ」
なんですって？と思わずキッと睨みながら勢いよく振り向く。目が思い切り合ったその女の子達は私の勢いにちょっと驚いたのか肩を震わせていた。
と、ぼそりと龍之介先輩が変人コンビに「昨日のアレ」と声を掛ける。
それにピンと来ると私は不敵な笑みを女の子達へ浮かべた。それに女の子達は目を見張る。まあ見てなさい。
『「点を取る力」では、絶対に負けていない。まずは───』
翔陽くんが助走へ入る。いつものように、大きく飛んだ翔陽くんに合わせ、飛雄くんがいつ触れたのかも見えない素早いトスを上げ──翔陽くんはそれを瞬時に真下に叩きつけた。
『！！？』
見ていた人達からどよめきが起こる。当然女の子達も何が起こったのかわからないと言った様子で目を見張っていて、それに私は不敵な笑みを深めた。
貴女たちが補欠、って言った彼はレギュラーで、攻撃の要で、私を未開の領域へ連れて行ってくれる、烏野の眩しい太陽です。
小さいからといって侮るなかれ。油断しているとあっという間に啄まれる、とんでもない攻撃力を持った雛烏。
「───「殴り合いを制せ」。烏野、行きます！」
狙うは絶対王者、大鷲白鳥沢の首。
運命の決勝戦が始まろうとしていた───
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作者名：さくら | 作成日時：2020年11月4日 18時
