決勝戦 プロローグ 3 ページ21
この空気感の中声かける？とか出来る限り牛島さんと会わないようにとか色々考えていたのに！とかそういうのを全てぶったぎる底抜けに明るい声だった。
手を振られているので無視も出来ず頭を下げると、そこに工くんと賢二郎先輩も加わる。
「Aさんどうも！！」
「久しぶり」
「ど、どうも……」
「！？えっ！？何どういうこと！？」
病院で会った組が律儀に挨拶をしてくれるのに、旭先輩がなんで挨拶を交わしてるの！？と言わんばかりの表情で私と白鳥沢を交互に見た。
「あ、あの入院した時に……たまたま会いまして」
「お見舞いさせて貰ったんだよーん。ね、Aちゃん？」
「琴香さんにもよろしくお伝え下さい！」
「っていうか今度遊びに行っていい？前誘われたしね、琴香さんに」
『……………………』
それぞれの声掛けに烏野メンバーの顔が真顔になっていく。そっと横を見ると蛍くんが相当イラついた様子でこちらを見下ろしていた。反射的に思う。
あっこれはまずい。と。
「そ、その辺りの話はまた今度しましょ───」
ただでさえピリピリした雰囲気が更にピリつく。思わず顔を引きつらせていると、3人の背後から牛島さんがこちらへやってきた。
「！」
それに思ったよりも反応してしまい肩が震えた。牛島さんはそんな事お構いなしに私の前までやってくると、そのまますっと手を伸ばし、私の目元を親指で撫でた。
『─────！？！？』
『なっ……！？！？』
突然目元を撫でられ固まる私と、それを見て何が起こっているんだと言わんばかりに皆が目を見張るのは同時だった。
「目が赤い。ちゃんと昨日冷やさなかったのか」
「！？え、あ、えっと、いえ、冷やしたんですけどそのっ、ちょっと冷やし方が足りなかったかも……！？」
牛島さんの手は私の目元付近に触れたままだ。顔に熱が上がるのがわかって焦っていると、ダメ押しかのように再度目元を撫でられた。───あ、無理だ。
一瞬意識が遠ざかりかけたが、牛島さんはそのまま私の目元から手を離すとぽん、と頭に手を置いた。
「今日はベンチに入るのか」
「うぇっ！？あ、いえ、今日は、観客席です……！昨日はその、青城戦だったので……その……」
「───成程、昨日のは特別な采配、と言うことか」
「そ、その通りです！」
目線をあちこちに彷徨わせながらしどろもどろに言うと、牛島さんは小さく頷いた。
「わかった。及川がお前に渡せなかった勝利を、俺が代わりに渡してやる。───しっかり見ておけ」
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作者名：さくら | 作成日時：2020年11月4日 18時
