【HQ】烏野の「姫烏」16 (完結) (ページ32)

今日:4 hit、昨日:12 hit、合計:66,081 hit

代表決定戦・VS青葉城西 32 ページ32

さっきといい今といい、多分一くんの牽制なんだろう。孝支先輩、凄くいい位置にサーブを決めてる……！
それを受けた徹くんが貴大先輩へとトスを上げ、貴大先輩のスパイクを飛雄くんが止めるが、それは白帯へと当たり烏野側へ落ちる。

「───！落ち……」
「前前前───っ！！」
「俺、が、取るっ！！！」

私が思わず口元に手を当てて息を飲んだのと飛雄くんが声を上げたのは同時だった。それを間一髪の所で孝支先輩が拾い上げる。

「よしっ！！よォォっし！！」
「行け！！」

鵜飼コーチと孝支先輩の声が同時に響く。孝支先輩以外の烏野全員が攻撃態勢に入り、否応無しに緊張感が高まる。トスは誰に上がる！？

そう思って飛雄くんへ視線を向けた次の瞬間。飛雄くんは手元に来たボールをツーで落とした。

「クソガキども─────！！！」

それに一くんが反射的に手を伸ばし、徹くんも飛び込む形で手を伸ばすが、どちらの手もボールには届かなかった。

「────かっ」
『げやまぁああああ！！！！』

このタイミングでのまさかのツー。誰も予想しなかった攻撃に烏野側がどよめいた。これで25対24、烏野のマッチポイント……！！

──と。沸く烏野側を……と言うよりも、あれは飛雄くんをだろう、悔し気に滑り込んだ体勢のまま睨みつける徹くんの姿が目に入る。
それに、瞬間的に3年前の北川第一対白鳥沢の試合の事と……

『───今でさえ脅威だって言うのに。……まあ、いずれ負けるんだろうけど』

前に聞いた徹くんの言葉が脳裏に蘇り、胸が痛くなる。
それからすぐに立ち上がった徹くんは、悔し気な表情は押し込めて、ただただまっすぐ飛雄くんを睨みつけていたが、またもここで視線を外す際に私と目が合った。徹くんは先程と同じような複雑そうな表情を一瞬浮かべた後、厳しい視線のままにふっと不敵な笑みをこちらへ向けた。それに、なんとなく泣きそうになってしまう。

────そうだよ。どんなに厳しい状況でも、どんなに悔しい事があっても。「及川徹」は、それでいて。
……私が一番大好きな、自分こそが最強だと言わんばかりの徹くんのままで。

伝わるとは思わなかったが、そんな気持ちを込めて。またこちらだって負けない、という気持ちも込めて、出そうになった涙をぐっと堪えて私は真っ直ぐ徹くんを見つめ返して微笑んでみせる。それに僅かに表情を和らげた徹くんが、すっと私から視線を外し踵を返したと同時にホイッスルの音が響く。青城側のTOだ。