病院にて 1 ページ1
─────夢を、見ていた。
中学校の時の、あの時の夢。
けれどあの時と違うのは、私はちゃんと徹くんに「置いていかないで」と言えている事だ。
あの時の私には何もない。徹くんのように、沢山の努力を注ぎ込めるような夢中になれる夢も、夢に向かい直向きに努力する彼の横に立てる自信も、何もない。
でもそれでも、明確に置いていかないでと手を伸ばす。前を歩く徹くんの背に、必死に手を伸ばしてずっとずっと追いかけて。
場面が高校の、今の状態に変わってより距離を感じるようになっても、夢の中の私はずっと徹くんを追いかけている。
────ねえ、中学の時にわからなかった事、今ならわかるよ。
ねえ、自分で見つけた訳ではないけど、今の私にも夢中になれるものがあるよ。
ねえ、今更遅いのはわかってる、それでもやっと、なんで徹くんがそんなにバレーが好きなのかもわかったよ。
私はバレーには敵わない。こんなに煌めいてる世界だなんて知らなかった、───知ろうとしなかったから。
今更なんて都合のいい、自分から目を逸らしておいて、ムシがいいってわかってる。それでも、それでも。
私もその煌めいてる世界を一緒に見ていきたいから、「置いていかないで」って言ってもいいかな……………？
─────────
「────…………」
ゆっくりと意識が浮上する。ぼんやりとした視界に最初に映ったのは真っ白の天井だった。
僅かに視線を横へずらすと点滴がぶら下がっている。
「…………？病院……？」
「───！Aちゃん！！」
「気が付いた！？」
「っ、よかった……」
ぽつりと漏らすと横でがたっと音がして、3人が私の顔を覗き込んだ。徹くんと忠くんと蛍くんだ。
「覚えてる？家の前で倒れた事」
「バテ気味らしい、って事は聞いてたけど思った以上に疲れてたんだね……」
「う、ん……なんか、うっすらとは……3人が病院に連れてきてくれたの？」
「おばさんにすぐ連絡して迎えに来てもらった」
「そっか……迷惑かけてごめん。忠くんも蛍くんもごめんね、合宿後で疲れてるのに……」
せめて家に入ってから力尽きたなら良かったのに、タイミングが悪いと顔を覆っていると。
「…………ごめん」
「─────え？」
蛍くんから飛んできた謝罪に思わず手を顔から離して蛍くんを見た。蛍くんは私とは視線を合わさず悔しげに目を細めていた。
「……僕は6日目の夜の時点から体調が良くなさそうなのを知ってたのに……気付けなかったから」
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作者名：さくら | 作成日時：2020年6月22日 22時
