つかの間の幸福《轟焦凍》 (ページ5)

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｢さてここからが問題です｡___｣

｢この人間らしい生活にあこ憧れる
【なにか】は､あなたの余命に対して､1年につき､いくらくらいの値をつけてくれるでしょう？
……先に言っておきますが正解はありませんよ｡｣
｢あなた達がどのように考えて､どういった答えを出すか知りたいんです｡
さあ､しばらく､近くの席の人同士で話あってみてください｡｣

教室がざわめき出す｡

しかし､私は話し合いには参加しなかった｡
正確に言うと､出来なかった｡
なぜなら私も､さきほど生涯賃金の話を持ち出したお利口さん同様､クラスの鼻つまみ者だったからだ｡

話し合いに興味が無いふりをしつつ､時間が過ぎるのを待った｡

前の席の連中が､
｢一生が三億円くらいだとすると……｣
と言っているのが聞こえた｡

あいつらが三億なら､と私は考える｡

私は三十億くらいあってもおかしくないな｡

話し合いの結果がどういったものだったか､
私は覚えていない｡
不毛な議論に終止していたのは確かだ｡

そもそも小学生に扱い切れるようなテーマではないのだ｡
高校生を集めたって､それを生産的に議論出来るかどうか疑わしい｡

いかにも将来が暗そうな女の子が､
｢人の命に値段なんてつけられない｣と
熱く主張していたことは､よく覚えている｡
たしかに､彼女と同じ人生を送る権利があるのだとしたらそれに値はつかないだろう──そう私は思った｡

むしろ､処分料金を請求されるんじゃないだろうか｡

どのクラスにもひとり入るような
頭のいい道化は､私と似たような事を考えていたらしく､
｢でも僕と同じ人生を送れる権利が売ってたとしても､君達､300円も払わないんじゃない？｣
と言って周りを笑わせていた｡

その考えには賛同できたが､そいつらが明らかに自分の価値がそこら辺の生真面目な連中よりもずっと高いことを自覚した上で､白々しく自虐的な笑いを取ろうとしているところは､忌々しく感じられた｡

ところで､学級担任はこのとき､
｢正解は無い｣と言った｡

しかし正解らしきものは存在した｡
10年後､二十歳になった私は実際に寿命を売って､その対価を得ることになる｡