【HQ】優しさに触れる【短編集】

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けど立ち止まれなかった。

私は今まで物分かりの良い人のふりをしていたから。
研磨がゲームとバレーにしか興味ないってのもわかってて、それでいいんだってフリしてたから。

本当はそんなにいい子じゃない。研磨に騙してたのかって思われるのも辛かった。

いつまでも逃げられるわけじゃないけど、今は会いたくない。

研磨クロに会った。今からそっち行く。

『そっちってどっちかわからないでしょ。』

思わず苦笑した。



その瞬間だった。


グイッ



後ろから抱きしめられる。



思わず振り向く。


『研磨？！』

「はぁ。疲れた。」

何気初めてのハグみたいなもので、こんな時なのにドキドキしてる自分がいる。

『あの、ごめん。私本当はこんなやつなの。研磨に嫌われたくなくて。ごめん。』

「別に。それより別れるって何。」

心なしか研磨が怖い。

『いや、研磨が何とも思わないなら別れた方がいいかなって…。』

「思う。クロも言った。俺、そんな適当に付き合わないし。」

『あ、そっか！じゃあ嬉しい、かな！』

これが聞けただけでもう十分だ。

「どう思ってたのか言わないとわかんないよ。」

そうだなぁ折角機会くれたし。今更取り繕うのも無意味だから言ったほうがスッキリするかもなぁ。

『研磨、寂しかった。』

「うん。」

『研磨の彼女って自信持ちたかった。』

「ごめん。」

『私だけ好きで付き合ってもらうの申し訳なかった。』

「それは違う。俺も好きだよ。」

そう言って研磨は顔を肩に乗せる。

『いいよ、無理しないで。全部私が発端だもん。』

「勘違いだから。まず、俺がいいなって思ってクロに委員会で声かけるように頼んだ。LINEも何話せばいいかわかんなくて試合前しか出来ないし。」

『え…』

「悩んでそうだったからクロに頼んで電話繋いでもらってた。クロにはお前が聞けよって言われた。でも冷められたと思って無理だった。ごめん。俺が情けないだけ。」

研磨が饒舌に話すことが珍しすぎて。その内容も内容で。驚きが大きかった。

『いいよ。嬉しいし。お互い、気を使いすぎてたんだね。あのさ、こんな風に抱きしめてほしいし、LINEもゲームの話でもバレーの話でもいいんだ。だからもっと話そう。』

「うん。ありがとう。あのさ、部活終わった後一緒帰ろう。送る。俺もAが彼氏だって誇れるようになる。」

それが聞けただけで十分だった。やっとここから、私たちの恋は始まった気がした。

「好きだよ、A」

赤葦京治→←孤爪研磨

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