07 乙女の涙はすぐ枯れる ページ9
よっこいしょ、と隣の兄を乱雑に押し退けながら、狭いクローゼットから出ようと身じろぐ一松さん。
「アッちょっとほんと出て来ないで大丈夫です!」
「え、なに?ここに住んでいいの俺?」
出て来たらもっと面倒なことになりかねない。
バカなことを真顔で言いのける彼には無視を決め込み、クローゼットを閉めようと手をかける。
すると、出る途中だった一松さんが戸に体を挟んだ。
「……っ!ひ、ヒヒ。アンタ意外と積極的じゃん……」
「ギャア!あ、足を!足を掴むな!!」
ハァハァと荒い息で足首を掴んでくる一松さんに、背筋がぞわぞわと凍えてますます戸を閉める力が強くなる。
「い”ッ……はは、アンタ結構力強いね。ハア、あ〜……スゲーいいよ……ほんと最高……」
「おい!一松を喜ばせるのは構わないが、中に俺も居ることを忘れないでくれハニー!!」
ちょっともうただでさえ手一杯なのに、加えてドンドンとクローゼットの戸を叩いてくるカラ松さんに、頭がぐるぐる回る。
大体こいつら何でここに居るんだ。
窓は全部閉めてるし、昨日しっかり戸締まりも確認したはずなのに。
なのに、どうやって。
目の前でギャアギャアと騒ぐ変態二人に、混乱する頭がパンと弾けてじわりと涙がにじんでくる。
「っう……」
思わず口から出た嗚咽に、バンバンと戸を叩いていた音がぴたりと止んだ__
__かと思うと、中からバン!と力強く戸を開け放ったカラ松さんが、無言で私に近付いてくる。
サングラスで表情こそ読み取れないものの、口元は心なしか楽しげだ。
え?と思う暇も無く、私の腰を抱き寄せるとぐっと顎を持ち上げて熱っぽい瞳で見つめてきた。
「ああ、顔をよく見せてくれ……そう、泣いてるのか……。っハァ、さっきまであんなに強気だったのに、可愛い……。昨日の苦痛に悶える顔も良かったが、泣いてる顔もそそられる……」
ぐい、とあふれ出る涙を親指で拭って、愛おしそうにぺろりと舐める。
そのあまりのアブノーマルさを目の前に、一瞬で体温が下がるのが分かった。
「ンン〜?どうした?こんなに怯えた顔をして……ふふ、俺が怖いか?」
もっと、もっと泣いて俺にすがってくれ!
そう息を荒げながらゆるゆると腰を撫でてくる、サディスティックなグラサンの腹に向けて、私はぐっと拳を握る。
頬を伝っていたはずの涙は、もうとっくに乾いていた。
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スカイ(プロフ) - 本当に好き....!!!めちゃめちゃ面白いです!作者様がまた書きたいと思いましたら、更新して頂けるととても嬉しいです!待っています! (2020年6月2日 18時) (レス) id: a0f03080e5 (このIDを非表示/違反報告)
おもちもちもちもんだみん(プロフ) - おもしろい〜! (2019年2月14日 14時) (レス) id: bcc917b3e1 (このIDを非表示/違反報告)
ヨモ(プロフ) - ナバポさん» コメント有難うございます!こじらせクズがとても好きなんです〜!楽しんでもらえてとても嬉しいです! (2017年12月23日 12時) (レス) id: 63c1855969 (このIDを非表示/違反報告)
ヨモ(プロフ) - 俺の嫁は二次元(キリッさん» コメント有難う御座います^^年に二度ほどしかない更新ですが楽しんでもらえたら嬉しいです! (2017年12月23日 12時) (レス) id: 63c1855969 (このIDを非表示/違反報告)
ナバポ(プロフ) - 二人がクズをこじらせている笑面白かったです! (2017年6月14日 20時) (レス) id: 03f7a55e36 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ヨモ | 作成日時:2015年12月15日 21時