33 ちょっぴり怖い ページ35
「だ〜っ、びしょびしょ…」
文句を垂れながら控え室のドアノブに手を掛ける。
すると、突然ドアが開かれて部屋の中から腕を掴まれた。
転びそうになって顔を上げれば、何とも難しい顔をした店長。その眉間には、険しいシワが刻まれている。
…何だかいやな予感。
そして、悪い予感は大抵当たるものだ。
店長は向かいに座ると、深く溜息を吐いた。
「あのね、クビ」
当たった。
「いや待ってください!確かにあの二人とは知り合いですけど!」
「でもさあ、キミが働いてる限り来るでしょ?ヤツら来るでしょ?」
「しっかり言い聞かせますので…!」
お願いします!と祈るように頭を下げる。
ここでクビになれば、元のニートに逆戻り。
待ち受けるのは旧友たちの結婚式と、パチンコ競馬、そしてあの悪魔どもだけである。
「ま、毎日シフト入れてもらって構いません!何でもします!」
「…何でも?」
考え込むような素振りを見せる店長をじっと見つめていると、私の両手は店長の大きな手に包み込まれた。
目が細められて、にんまり唇が弧を描く。
「じゃあ、僕と付き合ってくれない?」
「へ?」
「なかなか可愛いしさぁ。…結構好みなんだよねぇ」
下から上まで舐めるような、イヤな視線に晒される。
状況が理解できずにぽかんとしていると、店長が笑みを浮かべたまま私の顔に手を伸ばした__
ドカン
「すいませ〜ん、面接に来ましたァ」
突如ロッカーが蹴り開けられて、目が据わった一松さんがゆらりと出てくる。
次から次へと起こる予測不能な事態に困惑していると、同じくポカンとした店長の肩に、ぽんと置かれる無骨な手。
「さあ店長、面接だ。お前がどれだけAを雇うに相応しい男なのか、ゆっくり吟味してやろうな」
口元に笑みをたたえたカラ松さんの目は、冷たく店長を見下ろしている。
なんだ、何なんだこのただならぬ気配は。
出て行くよう指示されて、二人に圧倒された私は素直に控え室のドアを閉めた。
◯
ようやく帰ってきた二人の男に、退職を告示される私。
「な、なんで!?店長は!?」
「さあ…知らない。海の底じゃない?」
「私は真面目に聞いてるんですよ!」
「俺たちも真面目に答えてるんだが…」
あくまでキョトンとシラを切る兄弟に、私はがっくりと肩を落とした。
「たぶん今ごろ魚のエサだよ」などと未だにふざける一松さんを無視し、私は絶対に就職してやると心に誓うのだった。
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スカイ(プロフ) - 本当に好き....!!!めちゃめちゃ面白いです!作者様がまた書きたいと思いましたら、更新して頂けるととても嬉しいです!待っています! (2020年6月2日 18時) (レス) id: a0f03080e5 (このIDを非表示/違反報告)
おもちもちもちもんだみん(プロフ) - おもしろい〜! (2019年2月14日 14時) (レス) id: bcc917b3e1 (このIDを非表示/違反報告)
ヨモ(プロフ) - ナバポさん» コメント有難うございます!こじらせクズがとても好きなんです〜!楽しんでもらえてとても嬉しいです! (2017年12月23日 12時) (レス) id: 63c1855969 (このIDを非表示/違反報告)
ヨモ(プロフ) - 俺の嫁は二次元(キリッさん» コメント有難う御座います^^年に二度ほどしかない更新ですが楽しんでもらえたら嬉しいです! (2017年12月23日 12時) (レス) id: 63c1855969 (このIDを非表示/違反報告)
ナバポ(プロフ) - 二人がクズをこじらせている笑面白かったです! (2017年6月14日 20時) (レス) id: 03f7a55e36 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ヨモ | 作成日時:2015年12月15日 21時