残夢の処理【菅原孝支】 (ページ10)

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００、残夢の処理ページ10

美術のファイルを集めた僕は、
美術室で必死に赤ペンを動かす先生に話しかけた。

「先生、持ってきましたよ」

「ありがとう、そこ置いておいて」

美術の先生は一昨年入ってきた若い先生で、
みんなからはA先生と呼ばれている。

「もうテストの採点したくない」

「先生なんだから頑張ってください」

「絶賛猫の手募集中」

「しませんってば」

腱鞘炎になるって...... と嘆く先生を励ましながら、後ろのレタリングや一点透視図法のお手本を眺める。

その中にはしわくちゃの絵が混ざっていた。

よく見ると、描かれてる人はこちらを見ていて紙と同じくらいくしゃくしゃの笑顔だった。

この絵だけが綺麗な見本たちの中で異様に浮いている。

「これ、シワだらけの絵ですね」

「え、どれ？」

「この、笑ってる人が描かれてるやつです」

「あぁそれか。それはね、私の夢なの」

「夢ですか？」

「しわくちゃでしょ。
でも、彼がいたから私は今ここにいるの」

「そうなんですね」

彼というのは恐らくこの人なんだろう。
先生はいいなぁ、夢を叶えられて。

「明日＂大掃除＂あるじゃないですか」

「あるね。なに捨てるの？」

「夢です」

先生の手が止まる。

夢を叶えた先生には申し訳ないけど、
今、僕は夢を捨てようとしていた。

だけど、僕の方を見て微笑んだ先生は否定も肯定もしなかった。

「もう少し待ってみたら？」

「え、」

「だって来年でも再来年でも大人になったからでも捨てられるでしょう？夢の描き方はたくさんあるから、全部やり尽くしてから捨てる方が私はおすすめ」

そっか、そんな考え方もあるのか。

なんだかこの言葉はすとんと胸にすとんと落ちてきた。

「じゃあ捨てるのは延期にします」

「それがいいよ」

「最後の言葉響きました」

「まぁ受け売りなんだけどね」

「へぇ、誰からですか？」

A先生は悪戯っぽく笑った。

「ラブレターを捨てた人かな」

そういえば、先生もうすぐ結婚するんだっけ。

おわり。