残夢の処理【菅原孝支】 (ページ9)

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０９、夢を捨てかけた人ページ9

太陽が傾いて空には白く欠けた月が出ていた。
そういえば菅原はなにを捨てたのか聞くのを忘れていた。

「ねぇ菅原はなにを捨てたの？」

「あれだけいい流れだったのにそれ聞く？！」

「私ちゃんと言ったじゃん」

本当に言うの？なんて呟いてる、乙女か。

「引くなよ？」

「引かないってば」

「ら、」

「ら？」

「ラブレター、」

予想外の単語に目が点になった。

いろんな感情がごちゃ混ぜになる。

「だ、誰宛？」

「............夢を捨てかけた人」

「え、ちょ、それって、」

「だから言うの嫌だったんだって！！」

私たち以外誰もいない廊下に菅原の声がこだまする。顔を膝に埋めた菅原も、その仕草が面白くて笑った私も、同じ赤に染まっていた。

「ねぇ、」

「なに」

「なんで捨てたの？」

「最初は言わないつもりだった」

「うん」

「だって俺たちこれから受験あるし、卒業したら進路は別だろ？それなら匿名で渡そうかなって。だけど、」

「だけど？」

「だけど、古典の時のAを見てたらやっぱりちゃんと言いたくなってさ」

そんな彼に触発されたのかもしれない。

気づけば考えるより先に口から言葉が出た。

「菅原、好きだよ」

「エッ」

うずまっていた顔が驚きの声とともに上がる。
女子が羨む白い肌は紅に染まっていた。

「なぁ、あのさ」

「なに？」

「卒業式の後もっかい言わせて」

「うん」

「その時はちゃんと口で言うから」

「じゃあ楽しみにしとく」

はい！と右手の小指が差し出された。そっと小指を絡める。菅原の指は男の子だから少し大きい。指切りげんまんなんていつぶりだっけ。

嘘をついたら針千本を飲ます約束を交わして、
私たちは廊下を後にした。