八重島さんの夏休み【白鳥沢】 (ページ12)

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五十二重島さんページ12

お化け屋敷でビビりまくっていた及川くんをからかいながら、二人でぶらぶらと街中を歩く。

アイスを食べたり、スポーツ用品を見たり、歩きながら他愛のない話をしたり。

楽しい時間はあっという間で、いつのまにか日が傾きかけていた。

・

「俺さ、Aさんのこと好きかもしんない」

及川くんの言葉に思わず立ち止まる。

ちらっと及川くんを見たら、端正な顔は夕日に照らされて、オレンジがかった瞳に吸い込まれそうになる。

あぁ、これは真面目に応えないと。

でもどうしたらいいんだろ。

２つの思いが頭の中をぐるぐる回ってく。

大学生と高校生。たった２年しか変わらないのに、その２年の壁は高くて厚い。
しかも私はまだ少ししか知らなくて。

・

言葉が出ない私に、及川くんが言葉を紡ぐ。

「Aさんは俺のこと嫌い？」

「いやまさか」

全力で首を振ると、＂もげそう＂と笑われた。

及川くんはまぁ強引だけど、

人のことをちゃんと見てるし、誰よりも努力家だし、なにより一緒にいて楽しい。

私は人として好き。

「ごめん、私の好きは及川くんのと違う気がする」

「そっか」

ツクツクボウシの鳴き声が秋の始まりを告げる。

「俺さ、白鳥沢の１年が立候補したの聞いちゃったんだよね」

「エッ」

今度は及川くんと目が合った。

それって、合宿所の砂浜で工くんが＂俺も立候補していいですか＂って宣言したやつじゃん。

あの時を思い出してたら、顔が熱くなってきた。

「Aさん、俺も立候補するから」

「へ、」

「そのうち俺だけしか見えないようにしてあげる」

人差し指の甲でそっと唇をなぞられる。

やばい、なにこのゾクゾクする感じ。

「…………楽しみにしてる」

私の言葉に及川くんは一瞬驚いて＂そうこなくっちゃ＂と笑った。