53.強がりに、さよなら ページ9
ワガママで、自分勝手な願いだったろうか。
ぽろぽろと静かに泣きながら、Aはそんなことを思った。
「A……」
瞳からこぼれ落ちる大粒の涙を、ただ見つめる。
立ち尽くす明智の元へ、原田先生は歩み寄った。
「人殴って、こんなに震えてるんだ」
原因は恐怖か、力みか。
きっと前者だろう。
人に殴られる痛みと恐怖を知っている者が、殴ることに抵抗がないなんて。
ましてや、快感を覚えることはないだろう。
「お前は父親とは違うよ。全然違う」
＿＿お前も、この父親と同じなんだよ。
原田先生は先程の言葉を思い返しながら、首を振った。
同じなんかじゃない。
Aの言った通り、親子だからすべて同じわけがないのだ。
明智の瞳が揺らぐ。
弱みを見せようとせず、強がっていた姿はない。
こちらを見つめる、どこか弱々しい瞳に、原田先生は語りかけるように言った。
「そんな大人の真似しなくたっていいんだよ」
静かに泣き続けるAと明智を交互に見て、続ける。
「お前も清水ももっと子供らしく頼ってこいよ、
そんな大人の真似してたら大事なもん失っちまうぞ。
頼れ、明智」
力強く、そう言う。
明智の顔が、泣きだしそうにくしゃりと歪められた。そんな顔を伏せるように俯く。
そして、ずるずると座り込んだ。
それとAが彼に駆け寄ったのは、ほぼ同時だった。
弱々しい彼の姿を放っておけなかったのだ。
そのまま、Aは明智の首に腕を回し、強く抱きしめた。
明智も、彼女の体に腕を回す。
「痛えよ、A」
「ごめんね、ごめん、今だけだから」
笑う明智に、Aは震える声で謝った。
痛む腕をゆっくりと上げて、頭を撫でる。
瞼を明智の肩に押し付けて、Aは啜り泣いた。
「関係ないとか突っぱねて、それが優しさだって思ってた。お前の気持ち、考えてなかった。
……ごめんな」
そう謝る明智に、Aは首を横に振った。
「私だって、秀ちゃんとたくさん話せばよかった。
秀ちゃんに向き合わなきゃいけなかったのに、嫌われたくないって我儘でずっと逃げてたの。
ごめんね」
そう言ってまた涙をこぼすAに、明智は目を細くした。
宝物を見るような、暖かな瞳で見つめる。
その肩を、両手で掴む。
ゆっくりとAを引き離して、視線を合わせた。
「じゃあ俺ら、お相子じゃん。
それで、いいんじゃね？」
「……いいよ、それで。それがいい」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 356人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
れ - 面白いから更新されないの悲しいです (2022年5月13日 0時) (
レス) id: 36b0096a5e (このIDを非表示/違反報告)
Mirai(プロフ) - もう更新されないのでしょうか？ (2019年10月4日 14時) (レス) id: 0ee5b43c16 (このIDを非表示/違反報告)
はな(プロフ) - 涼宮美桜さん» こちらにもコメントありがとうございます〜！頑張ります！ (2019年8月2日 12時) (レス) id: f75a474b38 (このIDを非表示/違反報告)
涼宮美桜 - 続編、おめでとうございます！！これからも更新頑張ってください！！応援してます！！！ (2019年8月1日 19時) (レス) id: 67fa9efd8d (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：はな x他1人 | 作成日時：2019年7月30日 13時
