51.揺るがないもの ページ7
泣きそうな声だった。
けれど、先程リング上で謝ったそれとは、大きく異なるもの。
絶望ではない。
言葉を発することが辛くてたまらない。そんな声色だった。
「どうしてそんなこと＿＿」
「＿＿清水」
Aの言葉を遮って、原田先生は声をかけた。
Aを真剣な目で見つめ、首を横に振る。
Aは口をつぐんだ。
今はAが声をかけるべき時ではない。そう言いたいのだろう。
Aが一歩引いたのを確認して、明智に向き直った。
「……わかった」
原田先生は頷き、明智に歩み寄った。
明智は後ずさる。
「じゃああんた、私を好きなだけ殴りなさい」
明智はきっとまだ、大人を信頼できないでいるのだ。
父に傷つけられ、母に置いていかれたという苦い記憶と経験。
それが明智の心に絡みついたままで。
今、明智がなんの躊躇いもなく、学校に戻るために必要なもの。
それは、Aの言葉でも、クラスメイトたちの歓迎でもない。
「裏切られた数だけ殴りなさい」
自分を裏切らない大人はいる。
その確固たる事実。
じりじりと歩みよる原田先生。
明智はその姿に気圧され尻込みする。
少し目を泳がせたあと、顔を上げた。
そして、拳をぐっと握りしめる。
踏み出した足に体重を乗せて、その拳を振り抜いた。
きゃあ、と女子たちから悲鳴があがる。
田中先生は止めようと大きく声をあげた。
しかし、原田先生はそれを制する。
原田先生は言葉通りやり返さなかった。
明智は一方的に殴り続ける。
最初は鋭く、素早く打撃が繰り返されていた。
しかし、徐々に勢いをなくしていった。
ついに、明智は殴ることをやめた。
よろめき、後ろに下がった彼を原田先生は見やった。その顔は腫れあがっていた。
「なんで……」
明智はそこで言葉を切る。
なぜだか涙ぐみそうになって、唇を噛み締めた。
眉は八の字になり、苦痛の表情が浮かぶ。
そんな悲痛な面持ちのまま、もう一度口を開いた。
「なんで殴り返さねえんだよ」
原田先生は何も言わない。
「やり返してくれよ……」
頼み込むような、懇願するような声だった。
顔を歪めて、明智は完全に腕を下ろした。
「やり返さないわよ」
殴られ続けた結果、腫れ上がったその顔で原田先生はそう言った。
「世の中には約束を守る大人もいるってこと、あんたに教えてんのよ！」
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れ - 面白いから更新されないの悲しいです (2022年5月13日 0時) (
レス) id: 36b0096a5e (このIDを非表示/違反報告)
Mirai(プロフ) - もう更新されないのでしょうか？ (2019年10月4日 14時) (レス) id: 0ee5b43c16 (このIDを非表示/違反報告)
はな(プロフ) - 涼宮美桜さん» こちらにもコメントありがとうございます〜！頑張ります！ (2019年8月2日 12時) (レス) id: f75a474b38 (このIDを非表示/違反報告)
涼宮美桜 - 続編、おめでとうございます！！これからも更新頑張ってください！！応援してます！！！ (2019年8月1日 19時) (レス) id: 67fa9efd8d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：はな x他1人 | 作成日時：2019年7月30日 13時
