【〃】:04 ページ5
｢…バレちゃった?｣
舌を軽く出してまるで悪戯っ子のように笑い飛ばすAちゃん｡それは年相応の姿で､女の子らしく振る舞っていた｡
それから音楽の指揮者のように指をクイッとあげる｡
それに従うように突き刺さっていた剣が次々と抜かれて､宙を舞いあがって…停止した｡
｢…なるほどねー…タクティクスは戦術って意味だし｡つまり武器自体も戦術｡Aちゃんが戦術を扱う軍師…ってことか｣
とんだイレギュラーだ｡
これは役を演じると言うよりも役になりきるといった方が正しいのかもしれない｡
もしミカグラの姉妹校にいたのなら類いまれなる才能だろうけど…｡
きっと辛い思いをするだろうな｡
それに…模擬とはいえ対抗戦でこんな面白いと思ったのは初めてだ｡
あえてよかった…Aちゃん｡君に｡
だからこそ､誠心誠意を込めて対応しよう｡
･
｢いくよ赤間君っ!｣
ツイッと指を振り下ろすと停止していた剣が落下してくる｡勢いよく振り下ろされる｡
右､左､左､左､左､右…｡突き刺さっていく剣｡
それを避けながらAちゃんのもとへかけていく｡対抗する彼女も剣を構えて､…交差した｡
･
･
･
パリンッ…────｡
･
そんな近くから聞こえたクリスタルが砕ける音｡
俺のクリスタルが砕ける音を聞いてから口角をあげた｡
｢さすがはシグナルイエローだね｡油断したよ｣
｢……｣
｢最後は正々堂々とやりたかったのかな?ワザとはずしたんだよね?｣
｢……｣
｢あーあ…負けちゃったな!悔しいけど…でも後悔はないからいいか｣
｢……｣
｢…楽しかったよ｡本当に｣
悔しいのかわからないけど…涙が出てきそうになった｡
…なんとか堪えないと｡
｢…赤間君｣
｢ん?｣
｢しんみりしてるところ悪いけどさ…｡いや…本当に悪いけどさ｣
やけに声のトーンが低い｡
勝者である彼女がこんな声を出すのはおかしいはずなんだけど…｡
｢んー?何｣
振り向かないでただ背中を見せる｡どんな表情の彼女がいるかわからない｡
暫く黙っていて…やがて声が聞こえた｡
｢…私のクリスタルも…割れてるんですけど…｣
｢…へ?｣
｢だから…私のクリスタル…砕け散ってるの｡赤間君の鎌にぶっ壊されて｣
振り向くとなんとも言えない表情のAちゃん｡口許に至っては某白いウサギのような×の口になっている｡
ついでに言えば小刻みに震えてもいた｡
｢…じゃあ…どっちが勝ったのか…わからないの?｣
｢…うん｣
…沈黙…そして…｡
･
｢｢嘘だろぉぉぉぉお────っ!?｣｣
･
叫びだ｡
･
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作者名：何て暑さなんだ
| 作成日時：2014年7月26日 14時
