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可愛いと言われた日ページ1

『はぁ…』

ある土曜の昼下がり、市中を歩く秋音は何度目か分からない溜息をこぼす。
最近は攘夷派による婦女暴行事件や金持ちの家が襲われる物騒な事件が続いており心身ともに疲弊しきっていた。

「次どこ行くー？」
「新作パフェ食べに行こうよ！」
「賛成ー！」

そんな中、可愛らしい着物に身を包み楽しそうに休日を満喫する同年代の女子達の楽しそうな声が聞こえ、秋音の心は更にずしんと重くなる。
真っ黒で可愛げのかけらもないカッチリとしたジャケットにこれまた同じく真っ黒のスラックス。
そして腰にはどう足掻いても"可愛い"とは程遠い刀を身に付けて歩く姿は紛れもなく"武装警察"

『可愛くないなぁ…』

幸い、仲間に恵まれ努力の結果2番隊隊長という役職まで与えられ何不自由ない高い給料を貰えている。
これ以上を望む事は贅沢であるということも分かっている。
だが秋音も24歳というまだまだ遊びたい盛りの普通の女だということも紛れもない事実で…
ダメだ、と自分を奮い立たせ見回りを再開しようと顔を上げたとき、

「あれー、真選組の姉ちゃんじゃん」
『え？』

後ろから間延びした、聞き覚えのある声に秋音は振り返る。
そこには片手を着物の前合わせに入れ、もう片方の手で耳を搔く銀髪の男が立っていた。
万事屋の旦那こと、坂田銀時だ。

『旦那、こんにちは』
「おー、土曜まで見回りたぁお巡りさんは忙しいねぇ」
『最近物騒な事件が多いですからね、そういう旦那は仕事中ですか？』
「そう言いたいところだがね、最近めっきりでよぉ」

これよこれ、と言いながら銀時は右手をクイと回す仕草をする。
それならギャンブルをしている暇は無いのでは？という至極真っ当な意見が頭に浮かんだが、下世話なことであると判断した秋音は不景気ですもんねという言葉で返した。

『ほどほどにして下さいね』
「あ、そうだ」

それじゃあ、と銀時に背を向けその場を後にしようとしたタイミングで銀時の声が重なり秋音は再び銀時の方へ体を向けた。
どうしました？という秋音に銀時は秋音の顔をじっと見ながら言葉を紡いだ。

「可愛い顔してんだから、あんまり自信無くすなよ」
『え！？』

そして、じゃあなと右手を挙げながら秋音を追い越し去っていった銀時の背中を見つめながら秋音は熱くなった頬を押さえる秋音の心は温かいもので包まれていた。