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69話 ページ34

秋といえば。
それは読書だの芸術だの食欲だの実りだの、人によって様々だ。韓愈が読んだ「灯火親しむべし」という詩はあまりにも有名であるし、紅葉で色づく木々はさぞ筆が乗るだろう。収穫の時期であり動物の本能的に蓄えの時期でもある。人々が季節によって人生の楽しみを見出すのは趣があり、なんとも人間らしい。
それに興じてみようと思うが手の中には本しかなかった。僕には読書が精一杯であるようで、しかし秋の香りに吹かれ紙を捲ると人々が唱える「読書の秋」に理解が及ぶ。
空のサソリとオリオンが反転するように季節もゆっくりと移り変わる。ちょうどその狭間であるこの季節は何をするにも過ごしやすいのだ。
風がそよぎ庭の楓が見開かれた本の上へ落ちる。鮮やかに染まった楓は文字を追っていた僕を移らせ目を惹かせた。その葉を指先で掴みくるくると回していると、ふと影が落ちる。
「おや、読書と楓なんて風情がありますね」
見上げるとにこりと微笑う松陽が立っていた。
「文化に興じてみるのもいいだろう?なかなかにいいものだ」
夕焼けのごとく綺麗に染まった楓を見せると、僕と楓を見比べられる。何をしているのだろうと反応を待ってみると、するりと頬を撫でられた。突然のことに驚くが当の本人は驚くほど優しい目をしている。
「我が宿に もみつ蝦手 見るごとに 妹を懸けつつ 恋ひぬ日はなし。紅に染まった楓は君の目にそっくりで綺麗です。きっと私は毎年この時期に君を恋しく思うのでしょうね」
砂糖菓子に蜂蜜を混ぜたような甘ったるい視線と言葉に咄嗟に目をそらしてしまう。爽籟に似つかわしくないほど紅く染まる。
僕はそれを隠すように小さく呟いた。
「…妹の意味が違うだろ」
「えぇ、ですが愛しい君には変わりないでしょう?」
追い打ちをかけられた僕は何も言えず、目を合わせることもできずただ俯くだけだった。
「ふふっ。紅葉で色づいたように真っ赤ですね。可愛い。私はね、Aと出会ってから何度もこうして君と想い合える季節を願っていたのですよ」
あまりにも幸せそうに言うものだから伏せ目でもちらりと見てしまう。目が不意に合って顔を背けようとすると顎を捉えられ固定される。耳に髪をかける指先が優しくも艶めかしい。ふわりと香るのは松陽の匂か、それとも楓の香か。いつの間にか手は絡めとられており身動きが取れなかった。

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作者名:月光 | 作成日時:2018年8月4日 0時

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