29話 ページ30
ぼくを殺していいからこいつには手を出さないでくれ。お願いだ。全部ぼくが受けるから。頼む。火炙りでも水でも、勿論刀でもなんでもしてもいい、だから松陽だけには何もしないでくれ。ぼくのたった1人の理解者なんだ。ぼくはもう松陽がいないと……!
ぼくのそんな願いも虚しく頭に衝撃が走る。どうやら頭を鈍器で殴られたみたいだ。経験したことのある痛みだったからすぐにわかった。
ぼくの目に映る最後の景色は燃え盛る業火を後ろに、ぼくと同じく頭を殴打されていた松陽の姿だった。駆けつけようにも縛られた腕と朦朧する思考では何もできない。ただ自らを呪った。
辛うじて出た声は蚊の鳴くような声で、鼻の奥がツンと痛かった。
「…ごめん、な………」
「おい起きろ」
次に意識が戻ったのは数刻経ったあとだろう。陽が暮れ次が出ていた。綺麗な丸い月だ。
バシャっと水をかけられ朧気な意識がはっきりとしてきた。1番先に思ったのは松陽のことだ。
「ケホッ…アイツは……」
気付けば声が出ていた。ぼくの微かな声が耳に届いたのか、人間は思い出したように言う。
「あぁアイツか。確かお前の仲間だったよなぁ?まぁ俺達は鬼じゃねぇからな、人間は殺さねぇ」
弱い頭に救われた。ひどく安心し体の力が抜ける。しかしそんなぼくを見て人間共は醜く、ぼくを嘲笑うようにした。
「んな別けねぇだろ!お前の仲間は全て殺す、人間でもだ。化物の仲間は化物、粛清の対象だ!」
「…は?」
正義を振りかざす人間共に1音しか出なかった。
「あんな化物見逃すなわけないだろ。縛って川に捨てたぜ」
その言葉は頭に入ったがしばらく意味が理解できなかった。いや、したくなかったのだろう。しかし言葉を咀嚼してしまうと視界が暗くなるのを感じた。
「ひっ…!」
人間の様子からぼくが何かしたらしいのだが完全に無意識だった。違和感の残る腕を見ると、縛られていた縄ごと腕を引きちぎっていた。不思議と痛くはない。言葉の綾だ。痛かった。心が。
ぼくの初めての反抗に人間共は刀を向ける。あの日々が嘘のように思えるほど、臆さなかった。ぼくのことは何してもいい。だが、アイツのことは、松陽だけは傷付けたら許さない。暗がりに引っ張られるみたいだ。
人間共が遠くで何かを叫んでいる。何も聞こえなかったし、聞きたくなかった。全部消えればいい、死ねばいい。
遠くで誰かが言う。
「本物の鬼だ」
きっと血に濡れるぼくは正しく鬼だろう。血の滴る刀を振った。
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作者名:月光 | 作成日時:2018年6月2日 16時