fourteenth day ページ8
彼女があの男に殴られたと零したとき、凪いでいたはずの腹の底で怒りがわいたのは何故だろう。彼女のことをAに頼まれたからか、それとも一緒にいる時間が長すぎて、感化されてしまったのか。恐らく両方だ。
どうしてもっと早くに外に出なかったのか。もしもAさんが帰ってくる前にあの男の姿をマンション前で見つけていたら、彼女が殴られるような事態には陥らなかったはずだった。他の人の目があるところでは優しい人だからと彼女が漏らしたことを思い出す。
そういった輩はどこにでもいる。周囲の目を気にし、媚び諂うことを得意とするああいった人種は、格下と認めた相手と二人きりになりさえしなければ無害なものだ。
あれから三日が経って、俺は散歩がてら彼女の送り迎えをすることにした。三日目の今朝ですら「大丈夫ですので」と念を押されたが、「Aの頼みでもあるから」と強い口調で言うと、彼女は口を尖らせる。
「昨日も一昨日も学校に来なかったんですから、今日だって平気です」
「油断させるための罠かもしれないぞ」
「罠って･･････」
「変なところで遠慮するんだな、昨日は醤油とみりんどころか米まで買ったのに。あれくらいの図々しさがあってもいいと思うけど」
「ええ〜」
木曜の朝、彼女は焼いたパンにバターを丹念に塗りこむ。きっちり四隅まで薄く伸ばしている姿を眺めながら、俺はサラダに入っていた人参を息を止めて咀嚼し呑み込んだ。
「今日は呼び出されてない？」
彼女の手元にあるスマホは今日は光る様子がない。木曜は午前の授業がないと言っていた彼女が慌てた様子で家を出たのが先週だったが、あれはひょっとしたら例の男が相手だったのかもしれない。
直接聞いたわけではないが、何となく察するところはある。Aさんはスマホに目線をやることもなく、「ああ」と気の抜けた炭酸のような声音で呟いた。
「呼ばれたところで行きませんよ」
彼女が伏し目がちに齧りついたパンが小気味いい音を立てるのを聞きながら、俺はどこかで安堵する。
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taka10(プロフ) - 少しずつ変化していくふたりの心情に、胸が締め付けられます…… 折り返し過ぎてしまって、どんな結末を迎えるのか楽しみでもあり、不安でもあり、そしてやはり終わってほしくない、ずっと見ていたい気持ちもあります… 無理なさらず更新頑張ってください。 (2月25日 8時) (
レス) id: fe4fec6c9e (このIDを非表示/違反報告)
やなぎ(プロフ) - taka10さん» コメントありがとうございます。いつか別れが来るとわかっていながら、距離を近づけていくことを意識しているのでそう言っていただけてとても嬉しいです！まだ半分程度ではありますが、完結までご一緒いただけると幸いです。 (2月4日 22時) (レス) id: 05a7068e83 (このIDを非表示/違反報告)
taka10(プロフ) - 丁寧な距離感の描写がとても素敵です。もどかしいような、じれったいような、でも終わってほしくないという矛盾した気持ちになりながら読ませていただいています。 (2月4日 16時) (レス) id: fe4fec6c9e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：やなぎ | 作成日時：2024年2月3日 13時
