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両親がいたら何か違っただろうか。数年前までは誰かの存在を確かに感じることができたマンションは、四人では少し狭いくらいだった。
個室というには小さすぎるリビング続きの和室はプライバシーもあったものではなくて、お兄ちゃんが部屋に入り込んで私の勉強を邪魔するのが常だった。計算が違うと指差され、私は恥ずかしさから八つ当たりをする。お兄ちゃんは笑いながら部屋を出て、お母さんが淹れてくれたココアを持ってくる。
襖を隔てたすぐ先のリビングでお父さんが洋画を見ている音が聴こえて、集中力がすっかり切れてしまった私は仕方なくお兄ちゃんとココアを飲む。
お兄ちゃんがノートを盗み見て、そもそもこの問題にこの公式は使わないとか、そういうことを言い始めるから、だからモテないんだと私は毒づく。大学デビューに失敗したお兄ちゃんはすっかり自信を喪失して、私相手にしか威張れない。
幸せだった。お父さんとお母さんが死んでしまって、高校生だった私と社会人になったばかりの兄が残ったときも、兄がいればそれでよかった。
私たちに残された大金と、マンション。少しでも負担を減らすために、近所の国公立大学を選んだ私に、お兄ちゃんは困ったように笑った。本当は都内の私大に行きたかったんだろと、私が捨てた大学のパンフレットを見て言った。
「お兄ちゃんを置いていけるわけないじゃん」
言い放った私に、「こっちの台詞だ馬鹿」とお兄ちゃんは声を掠れさせた。私を置いていけるわけがないと言った兄は、二年後に消えた。
携帯の通知音が鳴って、私は目を開ける。充電器に繋がれた兄のスマホではなく、握りしめた私のものから伝わったその振動は、地面から這い出た蝉の声に潰された。
「久しぶり。日曜日、一緒に夕飯でも食べない？」
私以外誰も兄を覚えていないと思った。だけど、この人はきっと違う。それが救いに思えたのは、私の心が弱っていたからだった。
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taka10(プロフ) - 少しずつ変化していくふたりの心情に、胸が締め付けられます…… 折り返し過ぎてしまって、どんな結末を迎えるのか楽しみでもあり、不安でもあり、そしてやはり終わってほしくない、ずっと見ていたい気持ちもあります… 無理なさらず更新頑張ってください。 (2月25日 8時) (
レス) id: fe4fec6c9e (このIDを非表示/違反報告)
やなぎ(プロフ) - taka10さん» コメントありがとうございます。いつか別れが来るとわかっていながら、距離を近づけていくことを意識しているのでそう言っていただけてとても嬉しいです！まだ半分程度ではありますが、完結までご一緒いただけると幸いです。 (2月4日 22時) (レス) id: 05a7068e83 (このIDを非表示/違反報告)
taka10(プロフ) - 丁寧な距離感の描写がとても素敵です。もどかしいような、じれったいような、でも終わってほしくないという矛盾した気持ちになりながら読ませていただいています。 (2月4日 16時) (レス) id: fe4fec6c9e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：やなぎ | 作成日時：2024年2月3日 13時
