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「そりゃあ、眼鏡をあんなところに置いておいた私が悪いですけど！まさか踏まれるとは思いませんでしたよ！」
「悪い」
「よりによってコンタクトもないし、裸眼でなんかなにもできませんよ！」
「だから昨日、午前のうちに眼科に行けばよかったのに」
「こうなるって知ってたら行きました〜！」
「悪かったって」
翌日は吹雪いてこそいなかったものの、ちらちらと雪が降り続いていた。重苦しい曇天に、容赦なく吹きつける風は体を芯から冷やしていく。帽子を被ってマフラーを撒いて、防寒対策は完璧にしてきたつもりだったけどそれでも寒いしそれ以上に何も見えない。裸眼で外を歩くことがこんなに困難だとは知らなかった。
数センチばかり積もった雪の上を一歩一歩亀のごとく慎重に歩きながら家から一番近い眼鏡屋を目指す私の隣には、勿論スマイルさんがいた。車道側を歩く彼の目線はほとんど前方ではなく私に向けられている。
「時間がかかりそうだな」
「すみませんねえ！？見えなくて怖いんですよ！記憶を頼りに歩いてるんですよ！」
「冷えるし、抱えていこうか？」
「荷物かな？」
「ふふ、大きな荷物だな」
「ひどい！」
憤慨する私に、スマイルさんは手を差し出す。笑っているのだろうか、表情がぼやけてほとんど見えないけれど、その声音は酷く柔らかく、穏やかだった。
「ほら、掴まって」
「･･････はい？」
「俺でよかったら」
良いもなにも。立ち止まって目を細めながら私に差し出されたものが彼の手のひらなのかどうかを見極めようとするけれど、さすがにほとんど見えていなくても、それ以外のものには見えようがなかった。だけど、手を繋ぐ、スマイルさんと、私が。考えていたら、何だか顔が熱くなってきた。固まったまま微動だにしない私に、スマイルさんはとうとう自ら私の手を掴んだ。
「陽が暮れるぞ」
やや強引に手を引かれる。私のものよりもずっと暖かい手のひらの感触に、私はもう言葉を作るほどの余裕がない。私の前を歩くスマイルさんの表情は窺い知ることもできないけれど、普段と変わらないその様子に、私だけが意識をしているのではないかと複雑な思いに駆られる。
彼に手を引かれて歩きながら、途端に口数の少なくなった私に合わせる様にスマイルさんは何も喋らない。眼鏡屋さんの看板が見えてきたあたりで、私は自分の手のひらが汗でべっとりと湿ってしまっていることに気が付いて、手を振り払って蹲りたくなった。
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taka10(プロフ) - 少しずつ変化していくふたりの心情に、胸が締め付けられます…… 折り返し過ぎてしまって、どんな結末を迎えるのか楽しみでもあり、不安でもあり、そしてやはり終わってほしくない、ずっと見ていたい気持ちもあります… 無理なさらず更新頑張ってください。 (2月25日 8時) (
レス) id: fe4fec6c9e (このIDを非表示/違反報告)
やなぎ(プロフ) - taka10さん» コメントありがとうございます。いつか別れが来るとわかっていながら、距離を近づけていくことを意識しているのでそう言っていただけてとても嬉しいです！まだ半分程度ではありますが、完結までご一緒いただけると幸いです。 (2月4日 22時) (レス) id: 05a7068e83 (このIDを非表示/違反報告)
taka10(プロフ) - 丁寧な距離感の描写がとても素敵です。もどかしいような、じれったいような、でも終わってほしくないという矛盾した気持ちになりながら読ませていただいています。 (2月4日 16時) (レス) id: fe4fec6c9e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：やなぎ | 作成日時：2024年2月3日 13時
