検索窓
今日:4 hit、昨日:19 hit、合計:5,149 hit

ページ2

彼は私の一つ年上で、所謂「浪人生」だった。見上げなければ目線が合わないくらいに高い背に、少し長めの前髪。細い手足は華奢なのに、私のものよりずっと大きな手のひらをした人だった。
ユーモアがあって努力家で真面目、周りには常に人が絶えなかった彼が、その外周を作る一人に過ぎなかった私を好きだと言ってくれたとき、私はとてもじゃないけれどすぐには信じられなかった。罰ゲームか何かで、私を騙しているのだと思った。
だけど彼は熱っぽい目で私を見た。大人しいところが好きだと言われた、猫を被って周囲に合わせているだけだったけれど、彼がそう言うのなら私は彼の前では大人しい、静かな女の子でいようと思った。



「うわ、騙してるじゃんそれ」

「うるさいなー。いいの、そういう私が好きだって言うなら、それでいいもん」

「なんだかなー。そいつさあ、そう言う風に宣言しておくことでAをコントロールしようとしてんじゃないの」

「まさか。そんな人じゃないよ」



お兄ちゃんの人を見る目は確かだった。元々、そうやって本質を見極めて他人を選り好みするタイプの人だったのだ。
一方、孤立しやすい兄を見て育った私は、まるで真逆のタイプだった。良く言えば順応が早く溶け込みやすい、悪く言えば事なかれ主義。身内以外の人間にはっきりとものを言えないところは治したほうがいいと兄には苦言を呈されたことがあるが、しかしそれは厳密に言うと間違いだ。
私が自分の意見を呑み込んでしまうのは、相手に嫌われたくないときだけなのだ。
だから彼も私を「大人しい女の子」だと勘違いをした節がある。本来の私は、気に入らないことがあるとすぐにむくれてしまうような子供っぽい人間だった。勿論それは、血の繋がった兄の前でだけだったけれど。



恋は盲目とはよく言ったもので、私は先生や先輩たちにも物怖じせずに意思を貫ける彼を尊敬していた。
彼が見せる不自然さに気が付いたのは、付き合い始めて数カ月が経った夏の終わりだった。

・→←thirteenth day



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 10.0/10 (75 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
88人がお気に入り
設定タグ:wt , 実況者 , sm
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

taka10(プロフ) - 少しずつ変化していくふたりの心情に、胸が締め付けられます…… 折り返し過ぎてしまって、どんな結末を迎えるのか楽しみでもあり、不安でもあり、そしてやはり終わってほしくない、ずっと見ていたい気持ちもあります… 無理なさらず更新頑張ってください。 (2月25日 8時) (レス) id: fe4fec6c9e (このIDを非表示/違反報告)
やなぎ(プロフ) - taka10さん» コメントありがとうございます。いつか別れが来るとわかっていながら、距離を近づけていくことを意識しているのでそう言っていただけてとても嬉しいです!まだ半分程度ではありますが、完結までご一緒いただけると幸いです。 (2月4日 22時) (レス) id: 05a7068e83 (このIDを非表示/違反報告)
taka10(プロフ) - 丁寧な距離感の描写がとても素敵です。もどかしいような、じれったいような、でも終わってほしくないという矛盾した気持ちになりながら読ませていただいています。 (2月4日 16時) (レス) id: fe4fec6c9e (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:やなぎ | 作成日時:2024年2月3日 13時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。