【WT】さよならを後ろから数える【sm】 (ページ10)

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second day ページ10

結局まともに眠れなかった。なのに体内時計だけは恨めしいほどに正確で、起き上がって時計を見ると休日の大学生にとってはまだ早朝と言ってもいい時間帯だった。普段ならもう一度布団にもぐりこんでしまうところだけれど、そうもいかない。
なんせ隣の部屋には来客がいるのだ。放っておくわけにもいくまい。夢であったりしないだろうか、という淡い望みは枕元の手紙が否定してしまっている。兄の字をそっと撫でていると、私は兄にちょっとした怒りを覚えていることを感じた。

「大事なことは全部あの人に聞けって･･････聞けないって･･････」

凛とした風貌とは裏腹に、何だか腹に一物ありそうな人だ。隠しているつもりかもしれないけれど、何となく壁を作られているのが分かる。しかしそれは勿論私にも言えることだから、特別彼を責めるわけにもいかなかった。
彼の話したことを疑うわけではないが、それで初対面の彼自身とすぐに打ち解けられるかどうかはまた別の話だ。

彼は兄の友人らしいが、そもそも兄の友人なんて私にとっては他人でしかない。他人の、しかも異性と、一つ屋根の下で暮らす。兄のことだから、女性に頼めなかったのは確認するまでもなく明らかだけど、それはなんだかとてつもなく無謀なことのように思えた。

そもそも彼は昨日ネットカフェに泊まるつもりでいたようだけれど、一体いつまでいるのだろう。仕事とか差し支えないんだろうか。今朝起きたら部屋がもぬけの殻、ということが私としては望ましいけれど、ひょっとしたら私がひとり立ちするまでずっと居る、ということだって考えられる。兄の書いた手紙をもう一度読み返したけれど、それについては一切触れられていなかった。本当に、大事なことは何一つ書いてない。

あの人は勉強はできるけれど私のことになると視野が狭まるから、その悪癖が出たのだろう。兄らしいと言えば兄らしいけれど、だからと言ってスマイルさん本人に「お帰りの予定は？」だなんて聞けない。
なぜなら私は日本人だから。どうにかして察していただきたいところだ。そう考えたあたりで、私は朝食の支度をしなければならないことに思い当たった。